大切な気づき
「結局は操風の魔術を安定させたり、威力を上げたり……そういう基礎力が高くないと、どんな魔術もうまくいかないのだと思い知りましたわ」
「まぁ、そうだね」
「リース様って中級や上級の魔術も学んでいらしたの?」
できるだけさりげなく、わたくしは中級魔術へと話をシフトした。
「もちろん。まぁ、上級を習っている途中でアカデミーに移ることになったから、上級魔術はあまり多くは習得できていないけどね」
「上級まで……! リース様、すごいですわ」
素直に感嘆の声が出た。中級ですらあんなに制御するのが難しいというのに、上級だなんて。リース様はきっととても真剣に魔術を学んでいたのね。そこまで学んで別の道に進むのは少しもったいない気がする……と思ったけれど、考えればわたくしだって同じような状況だ。
妃教育を苦労して苦労してやっと学び終えたというのに、今さら他の道を選ぼうとしている。そしてそれを後悔しているわけでもない。
……そうよね、人それぞれに事情や考えがあるのだもの。周りの者がどうこう言うべきことではないのかも知れない。
そう結論付けて、わたくしは改めてリース様に話しかける。
「下級、中級、上級と魔術のレベルが上がると、魔力の制御とかに何か違いが出てきたりするものなのでしょうか」
「まさかセレン、上位魔術にまで手を出そうと思ってるの?」
「いえ……そういうわけでは」
苦笑するリース様に、わたくしは慌てて言葉を継いだ。
「ただ、特別な制御方法とかがあるのなら、空を飛ぶ時にもしかしたら役に立つのかも、と思って……」
「確かに。あれは上級のランクに位置するのかも知れないね」
自分でも苦しい言い訳だと思ったけれど、リース様は意外にも納得してくれたらしく、少し考えるように顎に手を当てた。
「そういう意味で言うと中級、上級ってレベルが上がっていく時に制御に違いはあるかも知れないね」
「えっ!!?」
「うわ」
思わず食い入るようにリース様の顔を凝視してしまって、ちょっとだけ引かれてしまった。
「ごめんなさい、つい」
「いいけど……セレンは興味があることに関してはいつも驚くほど前のめりだよね」
リース様が楽し気に笑う。少し恥ずかしいけれど、貴重な情報だもの、一生懸命になってしまうのは仕方ないと思う。
「僕は土属性だからどこまで参考になるか分からないけれど」
そう前置きするリース様にわたくしは真剣な顔で頷く。そもそも属性が違う上にわたくしは困っている点を正直には言えない状況ですもの、参考になる話を拾ええれば幸運なくらいだわ。
「そもそも初級に比べて中級魔術以上は制御が極端に難しいんだ。なんせ複数の初級魔術を組み合わせて組成された魔術が多いから」
確かにヴィーもそんなことを言っていた。
「初級魔術はひとつの魔術を展開するだけだからその魔術に集中できるけど、中級になると二つ以上の魔術を同時に展開して、その出力が絶妙にマッチしないと威力が上がらないし不発になることすらあるから。その加減が難しいんだよね」
「二つの魔術の出力のバランスが重要、ということですの……?」
「もちろん息するくらい簡単に制御しちゃう人もいるんだけどね。僕はそこでちょっと苦労したかな」
リース様はわずかに眉を下げて恥ずかしそうな表情をするけれど、ものすごく貴重なお話な気がして、わたくしは耳をそばだてた。
「最初はなんで発動しないかよくわからなくて、二つの魔術の出力を変動させてみたら、ちょうど魔術が発動する出力のバランスがあるってことに気づいたんだよね。それからは中級でも上級でもさほど習得に躓かなくなったね」
「リース様、すごい……!」
思わず感嘆の声が漏れていた。だって今のお話、すごくすごく納得できるのですもの。
確かにそうかもしれない。
わたくしはまとめてひとつの魔術として制御しようと考えていたけれど、リース様の仰るとおり個別に出力を調整して制御すれば安定して魔術を展開できるに違いない。
いいえ、それだけではないわ。威力が最も高まる出力配分を見つけ出すことさえできるのではないかしら。そう思うと希望で胸が熱くなってしまった。
「少しは参考になったかな」
「すごく! すごく参考になりましたわ!」
「良かった。セレンが空を飛べる日も近いかな」
「ありがとうございます、リース様! リース様に相談してよかった」
わたくしは、心の底からのお礼を口にした。
***
「すごいじゃないか、セレン嬢! 格段にウインドボムの威力が上がっている」
開口一番、ヴィーが全力で褒めてくれて、わたくしはすっかり嬉しくなってしまった。お耳としっぽがぴーんと立って、お目々もまん丸に見開かれている。かなりびっくりしてくれたみたいだわ。
「昨日の今日でこんなにも進歩するものなのか……よほど昨日の討伐が悔しかったようだな」
「それはもちろんだけれど、実はある人からコツを教わったのよ」
「なに?」
ピクンとヴィーの耳が動く。
耳がわたくしの方をしっかり向いているのが分かって、わたくしはその可愛らしいお耳をちょんと小さくつついた。




