特別なデザート
前回間違って完結表示になってしまったみたいで、驚いた方、ごめんなさい!
もうちょっと続きますのでぜひまだお付き合いくださいませ(^^)
「お待たせ。今日は特別なデザートなのよ」
「そうか、楽しみだ」
素っ気なくそんな風に答えるけれど、ヴィーのしっぽはピンと立ってお目々もキラキラしている。期待でうずうずしているのが丸わかりなのがとっても可愛らしい。
テーブルの上にデザートバスケットを置いた途端、お鼻を近づけて「いい匂いだ……」なんて呟いてうっとりしている姿を見ると、こちらまで幸せな気持ちになってしまう。
「料理長がね、ヴィーのために特別に考えたと言っていたわ。楽しみだと思わない?」
「俺のために? 俺が食っていることを知っているのか」
「わたくし、急に毎日夜食を食べるようになったでしょう? 聞かれたから一緒に食べているんだと説明したの」
「それで猫のために菓子を作るとは、セレン嬢の家の料理長は随分と変わり者なのだな」
目を見開いてからちょっと呆れた顔をして見せるけれど、お鼻もお耳もピクピクと動いて、待ちきれない様子で目がチラチラとデザートバスケットに向いているのだから可愛いという感情しか浮かばない。
ヴィーのお水とわたくしの紅茶を用意してから席につき、デザートバスケットの蓋を開ける。中から出てきたのは、魚の形をした焼き菓子だった。
「可愛い、お魚の形のお菓子なのね」
「猫だから魚とは安易な。……まさか魚が仕込まれていたりしないだろうな」
一瞬警戒したように身を引いて「いや、魚の匂いはしないな。ふんわり甘い……パンケーキのような幸せな匂いだ」なんてお鼻をヒクヒクさせている。
「あら、ヴィーはお魚は嫌い?」
「いや、好きだが……菓子に入れて欲しくはないな。菓子は甘い方がいい」
「それは確かに。……まぁ、小さなお魚もあるわ」
わたくしの手のひらくらいのサイズのお魚型をしたパンケーキの奥から、小さなお魚がいくつか盛られた背の高いガラス皿が現れた。そしてその奥にはまたも小さな紙が入れられている。
きっと料理長がしたためてくれたものだろう。それだけ力作だということね。
ロマンスグレーが素敵な料理長のダンディなお顔を思い浮かべながら、わたくしはそっと笑んだ。
「メモによると、この小さなお魚さんがヴィーのために作ったものだそうよ」
「ふぅん、体格から見て妥当かも知れんな。確かに口のサイズ的にこれくらいの方が食べやすくはある」
「はい、どうぞ」
ひとつつまんで口元に差し出せば、ヴィーは躊躇なくパクリとお魚さんを口にした。
「ほのかな甘みで優しい味だな。シンプルだが美味い」
「良かった」
もうひとつヴィーのお口にお魚を供給してから、わたくしも自分の分らしい手のひらサイズのお魚に手を伸ばす。さすがにひとくちでは無理そうだけれどナイフやフォークもついていない。
仕方なく手でパンケーキを割ってみたら、中にはとろりとした黄金色のジャムと真っ白でふんわりしたホイップクリームが入っていた。
「なんだ、それは!」
「ジャムとホイップクリームだと思うけれど」
「そうではなく! 俺のにはジャムもクリームも入ってない……!」
笑ってしまった。
確かにわたくしの人差し指ほどの大きさしかない小さなお魚に、ジャムやクリームが入っているとは考えにくい。きっとパンケーキの生地だけのシンプルなお魚だったのだろう。
「そんなに悲しそうな顔をしないで、料理長はきっとヴィーの健康のことを考えてくれたのだと思うわ」
「け、健康?」
「ええ、この前お話しした時、そう言えば『猫に甘いものを与え過ぎると病気になるかも、食べてはいけないものがないかも含め調べておく』って料理長が張り切っていたの。食べやすい大きさも考えてくれているようだし、きっとヴィーのことを思って作ってくれている筈よ」
「そ、それは……ありがたいが」
ヴィーのお耳としっぽがシュンと下がる。よく見たらおヒゲまで力なく下を向いてしまっているのが何とも面白い。
「本物の猫じゃないからそんな心配は無用なのだが……さすがにそう説明するわけにもいかないか……」
甘いものは食べたいけれど、料理長の心遣いだと知るとそれを無碍にも出来ないらしい優しい黒猫ちゃんに、わたくしは自分の分をそっと差し出した。
「半分こにすればいいわ。わたくしも食べ過ぎは良くないもの」
「セレン嬢……いいのか?」
「もちろん。美味しいものは分け合った方がもっと美味しいもの」
嬉しさでお目々がキラキラ光っている。お耳もピーンと立ったから、よほど嬉しかったに違いない。わたくしが差し出す大きめのお魚に、はくっとかじりついたかと思うともぐもぐしたあと幸せそうにため息をついた。
「うむ、これが完成形だ……!」
感無量、という声色でヴィーが呟く。
とっても美味しかったということね。くすくす笑いながらわたくしももう半分を口にした。
「……!」
意外だわ、思ったよりも甘すぎない。
たっぷり入ったホイップクリームは甘味を抑えたあっさりしたもの。口当たりがとってもまろやかで、パンケーキをよりしっとりと味わい深いものに感じさせてくれる。
そして味と食感のアクセントになっているのが黄金色のジャム。量としては少量だけれどしっかりと存在感がある。とろりと濃厚な甘さなのに、果肉を残しているからか口の中でころころところがり、噛むとサクっと思いがけない食感があって楽しい。
パンケーキのほのかな甘みと弾力、ホイップクリームの滑らかな舌触り、そしてジャムの濃厚な甘味と楽しい食感。
ヴィーが「完成形だ」と唸るのにも頷けるほど、本当に絶妙な一品だった。




