わたくしらしく、着実に
いる。
この刺すような魔力は、きっと魔獣に違いない。
魔力のあるあたりは低木が密集していて、魔獣の姿を捉えることはできない。わたくしの実力では数や魔獣の種類を特定することはできなくて、不意打ちを避けられる程度にしかならないけれど。
油断なく魔獣がいるはずの低木のあるあたりを睨みながら、わたくしは前回の討伐時にヴィオル様が指摘してくれたことを反芻する。
前回褒められた点は、魔獣の攻撃を防護壁で受け止めるのではなく風壁で弾き飛ばしたこと。自身に近づけることなく、魔獣にも多少ダメージを与えることができるのが評価ポイントだと言っていた。
そして闇雲に動かず相手の動きを見極めようとしたこと、複数の敵を操風で上空へ巻き上げ逃走手段を封じた上で追撃し確実に仕留めたことだった。
逆に減点されたのは中級魔術を使わなかったことと、戦闘直後に気が抜けて座り込んでしまったこと。
減点対象の部分については策も考えてあるし、加点が欲しいなら地の利を生かした戦いをすると有利だと言うことも教えてくださったから、それについてのアイディアも考えてきているわ。
大丈夫。きっとできる。
自分に言い聞かせるわたくしの目の前で、魔獣がいる筈の低木のしげみから巨大な何かが飛び出してきた。
「きゃあっ!?」
弾丸のような猛烈な勢いで、ものすごく大きな茶色い塊が突進してきて、わたくしは思わず悲鳴を上げた。咄嗟に風壁を展開したら、その巨大ななにかが轟音を立てて激突する。
「!!!?」
砕け散った風壁に一瞬息が止まる。
慌てて新たな風壁を倍の厚さで展開した。そのまま耳を両手で塞いで防護壁も強化する。あの巨体にあの勢いでぶつかられたら、防護壁があっても弾き飛ばされてしまうかもしれないけれど。
鈍い音がして、風壁の向こうに土煙が巻き起こる。
ミシミシと恐ろしい音がして風壁が激しく揺れた。
初めて遭遇した圧倒的なパワーの魔獣を前に足が震えてしまうのをおさえられない。風壁が砕け散ったりたわんだりなんて初めて見たわ。
怖くてついヴィオル様の顔が見たくなってしまうけれど、その気持ちをなんとか押さえつけてわたくしは風壁の厚みを増強していく。
もうもうと立っていた砂ぼこりが少し収まってきて、魔獣の全貌が見えてきた。
「グレイトボアだわ……」
魔獣図鑑に載っていた魔獣。大きく凶暴な猪で、その突進力、巨大な体躯、鋭い牙が特徴だ。毛皮も硬く、剣が通りにくいと説明にあった。
こんなに大きくて恐ろしいのに、初級魔獣のくくりだなんて。
崩れない風壁にいら立ったのか、グレイトボアが何度も何度も風壁に体当たりする。悲鳴が出そうになるのを必死でこらえて、わたくしは考えを巡らせる。
落ち着いて。
落ち着いて。
壁に体当たりしている今がチャンスなのかも知れないわ。今なら攻撃を当てやすいかも知れないもの。
何度か深呼吸してわたくしは魔力をためていく。ちょうどいいわ。もともと今日は絶対に中級魔術のウインドボムを試そうと思っていたし、この魔術は今の状況にもっとも適した魔術でもある。
風の塊を敵陣に投げ入れて、その塊を中心にウインドカッターを撒き散らす魔術だから、風壁の向こうにウインドボムを投げ入れれば、効率よくグレイトボアを攻撃できるはず。
そう思うのに、恐怖からなのか焦りからなのかうまく魔力を制御できない。さすがに中級の魔術ともなると力が大きくて制御するのが一気に困難になるから、集中力が如実に魔術の出来にかかわってくるのよね。
「セレン嬢」
「はいっ」
突然のヴィオル様のお声に、思わず振り返った。
「せっかくだから記録玉も使ってみるといい」
「あ……確かに」
いけない、グレイトボアの迫力に圧倒されて記録玉に魔力をおくるのを忘れていた。ヴィオル様の言うことはもっともだわ。記録玉の扱いにも慣れておかないといけないし、どんな風に記録されるのかも把握しておかないといけないかもしれない。
グレイトボアの様子にも気を配りながら、わたくしは記録玉に魔力を流す。
あ……記録玉がチカチカと明滅したあと、ぽうっと白く光ったわ。これが記録されているということなのかしら。
ちらりとヴィオル様を見たら、頷いてくれた。
良かった、大丈夫そう。
ヴィオル様の顔を見た安心感でなんだかとても落ち着いたわ。今ならばウインドボムもうまく魔力を練り上げられそう。
両手の中に魔力を集中したら、さっきとは比べ物にならないくらい一気に魔力が練られていき、たくさんの刃をぎゅうぎゅうに詰めて丸めたウインドボムが、わたくしの手の中でギュルギュルと音を立てて激しく動いて、今か今かと爆発の時を待っている。
わたくしの部屋で練習していた時と同じくらい、威力がありそう……!
いきりたって激しく風壁に体をぶつけ続けるグレイトボアに狙いをさだめ、わたくしは練り上げたウインドボムを風壁越しに投げ入れた。
ウインドボムが地に落ちた瞬間、わたくしは制御を解いてウインドボムを炸裂させる。この角度なら、外皮が固いグレイトボアでも、きっとおなか側の柔らかい部分に刃があたるはず。
お願い。成功して。
その瞬間、刃が弾け飛び肉を切り裂く音と、グレイトボアの凄まじい叫びが森にこだました。




