サロンの新たな顔ぶれ
「ごきげんよう!」
つい声に力が入ってしまった。サロンに入る足取りも軽い。
昨日からマリエッタ達三人の女性陣がサロンに来るようになって、わたくしは明らかに浮かれてしまっている。あれほど苦痛に感じていたサロンの空間が、再び楽しいと思える日が来るだなんて。
「ごきげんよう、セレン様。随分と楽しそうですのねぇ」
「王妃教育が一段落ついたからかな」
既にサロン内に居たラーディア様とリンデ様に笑われてしまった。わたくし、そんなに分かりやすいのかしら。
「お二人やマリエッタと一緒にお仕事できると思ったら嬉しくて。つい顔に出てしまったようですわ」
「嬉しいね。可愛い事を言ってくれるじゃないか」
リンデ様が嬉しそうに破顔する。およそ淑女らしくない振る舞いではあるけれど、スラリとした長身で男性的な顔立ちのリンデ様だとそれもサマになる。女生徒に人気があるのも頷ける、と納得してしまった。
逆に小柄でおっとりした口調が特徴のラーディア様は、リンデ様を優しく窘める。
「リンデ様、もうそろそろ殿下達がお見えになるし、殿方の前でその口調が出ないように気をつけた方がいいわぁ。良くは思わない殿方もいるでしょう〜?」
「そう思って昨日は頑張ってたんだけどさ。なんせ疲れるし夜会だけならまだしも、一緒にいる時間が長いとどうせバレるよ。それにリース様は私がこんな喋りなのは知っているしな」
「でもぉ、リース様はきっと内緒にしてくれますわぁ」
「もちろん内緒にはできるけどね」
「きゃ!?」
いきなり後ろから声をかけられて、ラーディア様は文字通り飛び上がった。わたくしもビクッとしてしまったのは否めない。
一番驚いていなかったのは他ならぬリンデ様で、「来ていたなら声をかけてくれ。リース様も人が悪いな」と苦笑する。サバサバした性格のリンデ様は滅多な事では怒らない、懐の深い方だ。
「ごめんごめん。でも確かにラーディア嬢の言う通りではあるんだけど、変なところで気を遣い続けて効率を落とすより、周りに慣れてもらった方が結果的には気持ち的に後々楽なんじゃないかな」
「ありがとう、私もそう思う」
「ま、何かあったらフォローするよ」
心配そうだったラーディア様は、リース様の言葉を聞いてにっこりと微笑んだ。
「リース様がそう言ってくださるなら安心ですわぁ。良かったわねぇ、リンデ様」
「ああ、助かるよ、ありがとう」
リース様にお礼を言ったリンデ様は、ラーディア様にも「心配してくれてありがとう」と微笑む。お家柄は保守派と革新派で真逆だけれど、お二人はとても仲がいい。もともと我が国はとても平和で、派閥争いも激しくないからだろう。
そうこうしているところに、今度はにぎやかな笑い声とともにサロンの扉が開いて、マシュロ様達が入ってくる。ついで、マリエッタが居心地悪そうな顔で入ってきた。
「おっと、私よりもセレンの妹君の心配をした方が良さそうだな」
「そうですわねぇ、明らかに困っておいでの顔ですものねぇ」
リンデ様とラーディア様の言葉どおり、マリエッタは確かにいつになく浮かない顔だ。わたくしを見つけるとほっとしたように微笑んで、男性陣から離れてこちらへと駆け寄ってきた。
「お姉様、もう来ていたのね」
「ええ、いつも一番乗りを目指しているのだけれど、今日はお二人に負けてしまったわ」
他愛無い会話を交わしながら、小さくマリエッタに「大丈夫? タイミング的にも目立ち過ぎるのは良くないけれど……」と忠告すると、マリエッタもこっそりわたくしに苦境を伝えてくれる。
「でも教室まで迎えに来たんだもの。上級生だし、皆の前でお断りするのも難しくて」
「うわ、アカデミーの教室まで迎えに行ったのか」
「以前から貴族の品性にやや欠ける方達だと思っていましたけれど……困った殿方達ねぇ」
リンデ様もラーディア様も頭を抱える。リース様は思いっきり顔を顰めた。
「先輩方がまだきていなくて良かったよ。あいつらは自業自得として、あんなに浮かれた感じでいられちゃ、マリエッタの評価まで悪くなりそうだ」
そうしてマリエッタに向き直ると、リース様はキッパリとこういった。
「一番悪いのはあいつらだけど、マリエッタは気をつけておいた方がいい。君があいつらに連れられてサロンに来ると、騒がしいわあいつらが仕事しないわで先輩方も決して良くは思っていないんだ。それを頭に入れておいた方がいいと思う」
「……! は、はい……」
目に見えてマリエッタの顔が青ざめた。
わたくしもマリエッタに忠告した内容ではあったけれど、こんなに直接的な言葉は使わなかった。マリエッタにとってはショックな事だったのかも知れない。
けれどもマリエッタの方から断りにくいのも確かな事だ。ここはわたくしから言うしかないかも知れない。
「わたくし、マシュロ様達に控えてもらえる様にお願いしてみますわ」
「待って」
マシュロ様に声をかけようとしたら、リース様から止められてしまった。
「セレンから言うと角が立つかもしれないからね、ここは僕に任せて」
リース様が優しく微笑んでくれて、わたくしはホッとしてしまった。確かにマシュロ様の扱いはリース様が一番うまい気がするのですもの。リース様からならきっと彼らも反発せずに話を聞いてくれるに違いない。




