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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【ヴィオル視点】何しにきたんだ?

いや、参った。


昨日セレン嬢から『ヘリオス殿下とまた一緒に城下へ行く事になった』などと聞かされたおかげで、気持ちが妙に落ち着かない。


幸い夜は魔力アップのために昏倒する事にしているから、睡眠不足になったりする事はないが、浮かない気持ちだけはどうすることもできなかった。


次の無の日に出かけると言っていたが、その翌々週の無の日は夜会だ。そう考えると討伐へと赴ける日は多くてあと五回、その中で提出できるレベルの戦闘映像を録らなければならないだろう。


そもそも、幻影のセレン嬢が書庫へ篭っているという言い訳でどこまで邸を抜け出せるかも分からない。セレン嬢は、書庫へ篭りっきりになるのはよくあることだと自信を持っているようだが、俺はそこまで楽観的にはなれなかった。


頭を抱える俺の耳に、ノックの音と扉を開ける控えめな音が届く。



「あの、ヴィオル師団長……」


「なんだ」



俺がデスクから顔をあげると、側付きのコンタールの顔が一瞬だけ強張った。


俺はまた無意識に怖い顔をしていたのだろうか。以前よりはだいぶ俺に怯えなくなってきたとはいえ、まだまだふとした拍子にこうして怯えられてしまう。


俺はため息をつきそうになるのをぐっと堪えて聞き返した。



「どうした?」


「あの、ボーデン宰相がお見えです。お加減が悪いようなら、お断りすることもできますが」


「ふうん、珍しいな。まぁいい、通してくれ」



めちゃくちゃ忙しい筈のあいつがわざわざ足を運ぶだなんて本当に珍しい。話を聞いておくほうが得策だろう。そう判断して招き入れることにした。



「忙しいところ悪いな」



人好きのする笑顔を浮かべてボーデンが俺の執務室のソファに腰をおろす。お茶を用意し終えたコンタールが部屋を退出するのを見計らって、俺は単刀直入に聞くことにした。



「で、どうした急に」


「やる。貰い物だが、気にいるだろう」


「おおっ! これはムートラージュのオレンジブラウニーではないか! 食べてみたいと思っていたんだ」


「君は本当に甘味と魔術だけは異常に詳しいな」



ボーデンに笑われてしまったが、本当に暇ができたら買いに行こうと思っていたのだ。このところそんな暇を見出せなかっただけで。


オレンジの爽やかな酸味と濃厚な甘味、シナモンの香りが上品で大人のスイーツといった印象だ。うむ、評判通り美味い。


このところ公爵家の絶品スイーツやら夜会での豪華なスイーツやらばかり食っていて舌が肥えて町の甘味が楽しめなくなったらどうしようかと思っていたが、これはこれで美味い。



「幸せそうだなぁ、そんなところは以前から変わらないというのにな」


「? 俺は特に変わってないだろう。さすがに立場上言葉遣いくらいは気にしているが、昔っからこんなモンだと思うが」


「そういう意味じゃない。急にダンスを習い始めたり、その……セレン嬢に恋情を抱いたり」


「ぶはっ」



吹いた。



「ちょっ……汚いな」


「ああっ、もったいない。お前がとんでもない事を言い出すからだろう」



せっかくのオレンジブラウニーを結構吹いてしまったではないか。もっと味わいたかったというのに不本意だ。


ボーデンが顰めつつもハンカチを取り出したものだから、俺は慌てて自分のハンカチを取り出してテーブルを拭く。セレン嬢ほどではないが、ボーデンだって伯爵家嫡男で今や宰相閣下だ。真っ白い高価そうなハンカチで自分が吹き出したオレンジブラウニーを拭かれるのは心臓に悪い。



「だいたい誰が聞いてるかも分からんところでそういう事を言うな」


「お前のことだ、どうせ声が漏れぬようにしているだろう」



これ以上つっこまれたくなくてボーデンに注意してみたが、一蹴された。もちろん防音はしてるけども!


こういう時付き合いが長いと逃げようがない。俺は諦めて、再度話を促すことにした。



「そりゃ防音はしているが。それよりお前、何か話があるんだろう? まさかわざわざオレンジブラウニーを届けに来てくれたわけでもあるまい」


「ああ、うん……その、セレン嬢とはその後、どうだ?」


「……どうだも、なにも」



俺は無難な言葉だけを口にして、必死で記憶を掘り返した。


その後とは多分、夜会後という意味だろう。夜会後、セレン嬢に会った形跡は残していない筈だ。セレン嬢の邸に行く時は猫の姿だし、一緒に街や討伐に出る時は俺の鍛え上げた隠密系魔術でガチガチにガードしている。


絶対に大丈夫。な筈だ。



「いや、リースからセレン嬢が風系の魔術を操るようになった、すごい勢いで上達していると聞いたものでね。興味があった」


「ああ、なるほど」



そのことか! ちょっとホッとする。セレン嬢からその話は聞いている。俺が初歩の風魔術だけ教えたことになっているんだった。



「そういえば以前、風の生活魔術を教えたが……そんなに上達しているのか」


「かなりのスピードで上達していると聞いたけど、君は何か知らないのか?」


「初歩を教えたっきりだからな。魔力も豊富だし、セレン嬢はよほど魔術の才能があるとみえる。それは面白い、さらに興味が湧いてきた」



何食わぬ顔でそう言ってみたら、ボーデンに苦々しい顔をされてしまった。



「いや、これ以上興味を持たなくていい。邪魔したな」


「え? あ、おい帰るのか?」



なぜか肩を落としてボーデンは足早に去っていった。


意味が分からん。


あいつはいったい、何しに来たんだ。


美味しいオレンジブラウニーを差し入れして、よく分からない雑談をしてしょんぼり帰って行った友人の背中を、俺は首を傾げて見送るしかなかった。

昨夜は書いてる途中で寝落ちしてしまった……。

更新が遅くなってすみません_:(´ཀ`」 ∠):

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― 新着の感想 ―
[一言] おぉう。 さすが、師団長!! 腹芸もできた…!
[一言] 殿下が能天気に浮かれて「セレンをまたデートに誘ったんだ」とか何とかボーデンに嬉しそうに言ってきて、セレン嬢といえばとリースの話を思い出したボーデンが「まさかセレン嬢の陰にヴィオルありか?」と…
[一言] ボーデンさんは心中複雑っすよねー(笑) 実はかなり親密だと知ったら… どーなるんだろ(笑)
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