【ヴィオル視点】課題は多いが
セレン嬢は明らかに気落ちした様子だが、危険な選択は今のうちに指摘して是正しておく必要がある。それを繰り返すことでとっさの時でも正しい選択をできるようになるものだ。
むしろ今のうちに失敗しておく方が、何が危ないことなのかを理解できるチャンスが増えるだろう。
それに、たかだか三回目の戦闘だ。三十点とれただけでもいい方だと思う。
「そんなに気落ちするな。三十点は悪くない」
「そうなの、ですか?」
「ああ。さっきは指摘点のみ述べたが、もちろんいいところもある」
「本当ですか!?」
「もちろんだ。何度も撃つうちに刃の数は確実に増していただろう? 最後は二十枚を超える刃が出せていたぞ。実戦でこれだけの数を何度も撃ち続けられるのはそれだけで素晴らしい」
「確かに……最後の方は普通に撃てていたかも」
「それに、相手に攻撃をあてるのが難しいと判断して、相手の隙を作るための手法に転じようという発想は良かったと思う。魔獣と戦うにはそういった機転が重要だ」
「……」
「最後に、勝負をかけるタイミングを決めてしっかりと準備し、確実に一撃で仕留めたのは見事だった」
「ありがとうございます……!」
よほど嬉しかったのか、うつむいたセレン嬢はかみしめるようにそう言った。
「…………ヴィオル様」
「? なんだ」
ふと顔をあげて、セレン嬢が俺を見上げて微笑んだ。
「なんとなく分かったような気がしますわ。わたくし、次はもっと点数をいただけるように頑張ります!」
力強い宣言に、少し面食らう。さっきまでしょんぼりしていたとは思えない笑顔だった。
「そうか。楽しみにしている」
「お任せください!」
頼もしい教え子の姿に思わずエールをおくれば、満面の笑顔で請け負ってくれた。
セレン嬢のことだ。これほどはっきりと口にした以上、次の戦闘は期待できるだろう。楽しみだ。
***
「もうそろそろ休め。今日は討伐も行ったんだ、さすがに頑張り過ぎだ」
「……!」
俺の声にハッとしたように、セレン嬢の手が止まる。
振り向いて俺の方を見たセレン嬢は、「そう、ね」と両手をダランと下げる。集中しすぎて俺がいるのも忘れていたのかもしれない。
俺もさすがに眠くて、くあ、と欠伸をしながらしっぽをパタリ、パタリとゆっくり振る。
「今日はいつにも増して熱心だな。魔獣は倒せたというのに、なにをそんなに焦っている」
今日は行きの道中で一回、森で三回、帰路でも二回、割といい数の戦闘経験を積むことができた。だというのに、猫の姿に変化しセレン嬢を邸に送り届けたあとそのまま帰ろうとする俺を引き留めて、練習に付き合ってほしいと言い出した時にはさすがの俺もちょっと引いた。
セレン嬢の根性には軽く敬服する。
「焦っているわけではないけれど」
言いながら、やっとセレン嬢もテーブルへと腰を下ろす。卓上の冷めた紅茶で喉を潤し、ゆっくりと息を吐いて緊張をとくと当然のような顔をして俺の背中へと手を伸ばした。
優しく優しくゆっくりと俺の背中を撫でながら、セレン嬢は呟くように言う。
「やっぱりもっと強くなりたい、と思ってしまって」
「ふうん、主は討伐の成果は上々だったと言っていたが……今日はどんな魔獣を倒したんだ?」
当然俺はすべてこの目で見ているわけだが、セレン嬢があまりにも必死に鍛錬を続けるものだから、あえて話題を振った。俺から見たら思っていたよりもずっと順調なのだが、なにが引っかかっているのやら。
「わたくしね、昆虫系とかモモンガやウサギみたいな小動物系の魔獣はちゃんと自力で倒せたのよ。最後の方は一撃で倒せるようになって、ちゃんと成長できているみたいだと安心したの」
「すごいじゃないか、俺も鼻が高い」
「ただ、やっぱりウルフみたいな魔獣になるととたんに倒すのが難しかったの」
「ウルフはだいたい群れで行動するし、頭もいいからな」
「ええ、本当ね。結局倒せたのは一体だけだったわ。わたくしが防護壁で身を守っていて牙が立たないと理解した途端、一斉に退却してしまった時には、その鮮やかさに驚いたわ」
防護壁で守られていたとはいえ、何体ものウルフに襲い掛かられて逃げもせず腰も抜かさなかったのだから、前回より随分と進歩していると思う。ウルフなんて前回の鳥の魔獣ケッツィより数倍素早くて攻撃的で、複数で攻めてくるから攻撃が多角的だ。
セレン嬢の今の実力では当然一体を倒している間に他の数体にとびかかられるわけだが、防護壁も崩れなかったし目もそらさなかった。真っ青な顔で、唇を噛みしめて、でも悲鳴ひとつもらさずに攻撃する隙を狙っていたのだ。
セレン嬢は今日一日で本当に成長したと感じている。
「ウルフは賢くて強い魔獣だわ。あれでも低級だなんて、中級の魔獣と呼ばれる存在はどれほど恐ろしいのかしら。そう思ったらいてもたってもいられなくて」
納得した。
まったく想像すらついていなかっただろう中級の魔獣の強さ。怖さ。それが、ウルフと実際に戦闘したことで急に現実味をもって感じられたのだろう。それは、正しい恐怖だ。
「それが感じられるようになったなら何よりだ。実力が低すぎると相手の強さすら想像できないものだからな。セレン嬢がそれだけ成長したということだろう」
「そうかしら」
「そうだ。その怖さを糧に、また強くなれるだろう。俺も主も協力は惜しまん。頑張れ」
「ヴィ―……! わたくし、頑張るわ!」
俺の可愛い愛弟子は、俺をぎゅうっと抱きしめて誓ってくれる。
うむ、これは来週の討伐がまた楽しみだ。
書籍化にあたって『地味姫と黒猫』のショートストーリーを考えているんですが……こんな話が読みたいとか、このシーンの誰視点が読みたいとか、もし希望があったら感想欄にひとことコメントくださいませ。
検討いたします(╹◡╹)




