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「これがアルバザックの塔ね。 雰囲気あるなぁ……」
ヨーロッパの古城とかにある塔ってこんなかんじじゃないかな。
いかにも何かでそうな感じだね。いや、でるんだけど。
時刻は昼。とはいえ塔の中は暗いしアンデッドなら活動しているだろうね。
私達はカンテ村の南の洞窟に入った時のように、
暗闇でも見えるようになる薬を飲む。
余談だけど、この薬バルーザの町だとそこそこ値が張ったんだよ。
高価ってほどではないけれど、カンテ村よりも三割は高かった。
買い置きしててよかったぁ。
日本にいた時も、スーパーのチラシを――ってそれはもういいか。
「マスター、このまま突入するのですか?」
エンテが武器を構えて塔を見据える。
「いつでもいけますわ」
ジュネも武器を構えて微笑む。
「私はあまり役に立てそうにありませんね」
ウイナが弓を構えて少し残念な顔をする。
たしかに塔の中じゃあ弓は戦いにくいかもしれない。
「ちょっとまってね。浄化の加護を使うから」
私はみんなにスペシャルスキルの浄化の加護をかける。
エンテの白銀一閃も考えたんだけど、
探索のことも考えたら継戦能力を優先した。
ガムンさんの話から推測すると、
村から城塞跡に向かってそのまま戦闘が終わるまでの時間は効果があったみたいだし、
この塔を探索する時間くらいなら持つと思う。
私も攻撃に参加したかったけどね!
私の加護がエンテ達にかかり、キラキラとした光に包まれる。
元々エンテとウイナはアンデッドに対して
有利なアビリティを持っているけど確率だからね。
その点このスキルならば常に効果がある。
アビリティが発動すればさらにダメージ増加が期待できるし。
ジュネもこれでアンデッドに対してかなり有利になる。
攻撃力の高いジュネだから、スキルの恩恵も大きいと思う。
「これがマスターのお力……。身体が清められるのを感じます」
「優しい力に包まれるのを感じます。これが浄化の力………」
「主様が私の中に入ってくるのを感じます。ん……んんっ………」
ちょっと一人おかしくないですかね?
なんで悶えてるんだ。浄化の力もジュネの色欲は浄化できないのか。
「こほん、それじゃあ塔に入りましょう。
エンテ先頭をお願いね。ウイナと私が真ん中でジュネは後ろの警戒をお願い」
「了解です。ではいきます」
私達は塔へと足を踏み入れた。
塔の中はアンデッドがうろうろしているだけあって、
臭い。うぅっ、町に戻ったらすぐに湯浴みをしたい。
いや、途中にあった川で行水でもいい。
アンデッドはポツポツと出現する。
たいていはスケルトンやゾンビだ。
「武具乙女」でも低ランクのアンデッド系魔物として出現していた。
その上位がボーンウォーリア、グール。その上が――なんだっけ?
細分化していくからややこしいんだよね。
まぁただの色違いなんですけど。
それにしても結構広い。
塔っていうくらいだから狭い螺旋状の通路みたいなのを想像してたけど、
どちらかというとビルに近い構造をしている。
石段と石段の間にフロアがあり、私達はそのフロアをひとつずつ探索していく。
単純に上階へ行くならそのまま石段を登り続ければいいんだけど、
亡霊騎士がどこにいるかわからないからね。
ダンジョンなどのボスとかなら最上段にいるんだろうけど、
ウロウロしてるみたいだし。
「お嬢様の加護はすごいですね」
ウイナが矢でゾンビを倒して感嘆のため息をつく。
そうそうウイナもフロアの中なら問題なく戦えてる。かなり広いからね。
「ウイナの弓の腕があってこそだよ。私じゃ目標にすら届かないし」
というか、弓を引けるかどうかも怪しい。それくらい非力なんだよ!
「エンテとウイナが羨ましいわぁ。
たまに武器が光るけど、
それって主様が仰ってたアンデッドに効果的な攻撃なのでしょう?」
ジュネが拗ねたようにつぶやく。
「ジュネの紫電の力も相当なものだとおもいますが」
エンテはエンテでジュネの雷の追加攻撃が羨ましいみたい。
私も見てて派手だなぁと思うね。
「それを言うなら私はお二人が羨ましいですよ。
お嬢様の為に前にでて戦えるのですから」
ウイナもウイナで羨ましいところがあるんだね。
「私からすると、三人とも戦えるだけ羨ましいんだけど……」
戦闘では完全にお荷物です。
エンテ達が過保護すぎてサンドバックすらなれないんですけど。
「マスターは居てくださるだけで力になります!」
「お嬢様、戦いは私どもにお任せください」
「拗ねてる主様、可愛い………はぁはぁ」
これだもんね! あとジュネはやっぱりおかしい。
という会話ができるくらいには余裕がある。
うーん、この場所狩り場として悪くないんじゃないかな。
気持ち悪いという事を除けば、他にハンターの人が来ることはまれだろうし
素材を入手できなくても私達には関係ないからね。
結構いいかんじでヴェールを入手できてます。
宝箱とかはどれも空だけどね。
「ん? おかしいね。アンデッドがいない」
私達は三階部分を探索しおえて四階部分にくるもアンデッドが見当たらない。
「倒されたのでしょうか?」
エンテが周囲を警戒しながら言う。
この世界では魔物の数が多いが、ゲームのようにリポップというのはしない。
魔物も生態を持ち、群れを作ったりテリトリーを構えたりと様々だ。
森で遭遇した邪猿もそんな魔物のひとつ。
だからあの邪猿の群れを倒せばしばらくは安全になる。
数日も経たずに別の魔物がやってきたりするだろうけどね。
けどアンデッドは違うんだよね。
アンデッドが生まれるのは負のエネルギーが強い場所。
そういった場所はアンデッドが倒れても、
また負のエネルギーが補充されて復活する。
もちろん補充されるのに時間が必要になる。
例外としてはガムンさんが戦った時のような、
死人使いが操っている場合がある。
この場合は負のエネルギーを術者が補充するので、
術者の魔力がある限り復活し続けるんだとか。
「武具乙女」だとターンで復活してたけど、現実はこんなかんじなんだね。
もちろん術者の魔力が切れたら復活しないので、
城塞跡の時のように復活するスピードより倒すスピードが上まれば問題ないんだろうね。
資料室で呼んだアルバザックの塔の説明では、
この場所のアンデッドが復活する時間は約一日と書いてあった。
つまり……一日以内に誰かがこのフロアで戦っているという事。
ひょっとして亡霊騎士の討伐に来た人がいるのかもしれない。
んー……もう倒されてるのかなぁ。
そのまま私達は五階、六階と進むもアンデッドの姿を見かけることはなかった。
たしかここって十階構成だったと思うけど。
亡霊騎士と会えないのかなぁと思いながら進んだ七階。
そのフロアで私達は予期せぬ形で亡霊騎士に遭遇した。
「マスター、あれは…アンデッドがアンデッドを襲っているのでしょうか?」
エンテが驚いた顔をする。私もおんなじような顔をしてると思う。
七階のフロアでは亡霊騎士が、
そこらをうろつくゾンビやスケルトンなんかをグシャグシャと惨殺中だった。
アンデッドを惨殺っていうのもおかしいか。けどそんな表現がぴったりだね。
アンデッド同士が戦ってるなんて聞いたこともない。
同士討ちするのなら、今までのフロアでもそんな光景みれたはずだし。
ゾンビもスケルトンも仲良く襲いかかってきてたよ。
亡霊騎士はたしかに格が違うのか、
敵意を感じて向かってくるスケルトンやゾンビを一振りの元に薙ぎ払っている。
私はその亡霊騎士の持つ盾を確認する。
「あれは……メビウスで間違いないかな」
その手に持つ禍々しいオーラを放つ盾は、
間違いなく「武具乙女」で見かけた魔盾メビウスだった。
「マスター、亡霊騎士がこちらに気付いたようです」
あらかた周囲のアンデッドを屠った亡霊騎士が、私達の姿を捉える。
「オォォォォォォォン………」
首の無い顔から無念の叫び声が響く。
これはいままでにないプレッシャーを感じるね。
間違いなく今まであった魔物で一番強い。
「オォォォォォォォォン………」
もう一度叫び声を上げる。威嚇しているけど、
こっちは逃げるつもりはない。
「エンテは正面から敵の注意を引きつけて。
ジュネは側面から隙をついて攻撃。
ウイナは二人が敵と距離を取った時に牽制お願い」
私の言葉で三人が動く。
ウイナの放つ輝く矢が亡霊騎士の鎧の隙間を狙って放たれる。
ガキンッ!!
矢は身体に届くことなく盾に遮られる。反応が速い!
けど矢を追うようにして接近するエンテには対応できていない。
盾の死角から狙いすました斬撃を放つ。
鎧すら断ち切らんとするその攻撃を受けても、亡霊騎士は動じない。
盾を振り払うようにして、エンテを退かせる。
鎧越しだから効いてるかどうかわかりにくい。
頭がないから表情からも窺えないし。
そこへジュネが飛び込むように突撃する。
ちょうど盾を振り払い終わった絶妙のタイミング!
「はぁっ!!」
紫電の輝きと浄化の輝きを纏った突きが
鎧の隙間を狙いすまして突き刺さる。
「ォォォォォォォォォォォ」
これはまちがいなく聞いたはず。声に苦悶の感情が混じってるみたいだ。
そのままエンテはあえて盾で防がせるように攻撃を続ける。
ジュネは死角、死角へと回りながら鋭い突きを浴びせる。
紫電の光が走らない時でも、
浄化の力があるから確実にダメージをあたえているはず。
ウイナは亡霊騎士が剣と盾を振り回して、
二人を退かせた瞬間を狙って輝く矢を放つ。
その為に亡霊騎士は攻撃に転じることが出来ず、防戦一方だ。
このまま倒しきれるはず……私がそう思った時、
亡霊騎士が突然叫ぶように声を上げた。
苦し紛れの声? ――っていきなり魔物の反応が現れた!
場所は……私達の後ろのほうじゃないの!?
まさに今生まれたとでもいうかのように、
アンデッドがゾロゾロと現れる。
そのアンデッドは今までのフロアで倒したことのないアンデッドが混じっていた。
ボーンウォーリアが七体――それにあれはワイトだっけ?
独特の赤い光を纏っているから覚えている。
「武具乙女」ではデュラハンと同じく中位に属するアンデッドだったかな。
なんでこんなタイミングで……
亡霊騎士の叫びに呼応したみたいだけど。
アンデッド同士が戦ってたり、
アンデッドがアンデッドに助けを求めたりよくわからない。
どちらにしてもこのままじゃ挟み撃ちだし、
ウイナに牽制してもらいつつ態勢を整えないと。
私が三人に指示を出そうとしたその時、
私の目にワイトが魔術を放とうとしている姿が飛び込んできた。
狙いは――ウイナ!
ウイナはまだ突然生まれたアンデッド達に気が付いてない。
私も強さが上がって察知能力が高くなっていなかったら、
気が付かなかったかも。
ワイトは一瞬で魔術を構築すると、
私達に向かって大きな火球を放つ。
そこでようやくウイナもワイトの存在に気が付くけど、
間に合わない。
私はとっさにウイナをかばうように火球の前に飛び出した。
ウイナを守りたい一心で身体が自然と動いた。
次の瞬間目の前が赤く染まった。




