日常をクリームティーと
魔物を倒して以降、オスベル帝国に平穏が戻って来た。外出を控えていた人達が街に戻り、活気が溢れている。視察に行っても、子ども達の笑顔が随所で見られた。
騎士達の勇敢さを称えるパーティーでは多額の報奨金が与えられ、爵位を賜る者もいた。将来有望な騎士は女性達からも引く手あまたとなり、まさに国の花形だ。
街中では勇敢な騎士の物語が子ども達に大人気となり、未来の騎士候補を大量に生み出す結果となっている。
エドワードはというと、最近はソフィーとともに行う視察の数を増やしている。今まで近寄りがたかった皇室が、ソフィーが来てからというもの親近感を持って捉えられ始めた。国民の声も届きやすく、皇室の支持率の上昇にも繋がっている。
女児の赤ちゃんの名前に「ソフィー」と付ける人が続出し、ソフィーが外国名でなくなる日も近そうだ。
ソフィーはエドワードの代理の仕事を終えた。あの時の、肩の荷の下りようと言ったら!改めてエドワードの凄さを実感することになった。
結婚式で使ったカップや、ドレスのブランドは皇室御用達とし、国内外から貴族が訪れる程の人気となっている。おかげで皇室御用達の座を狙う人々から売り込みが絶えない。吟味するのもソフィーの仕事だ。
加えてチャリティーの支援依頼、お茶会やパーティーへの参加依頼の殺到、単独の視察の増加と目まぐるしい。
そんな相変わらずの忙しさを癒してくれるのがクリームティーの時間だった。
「ローズティーと、スコーン!今日は私がお茶を淹れたの!」
ソフィーが声を掛けるとエドワードが資料を読む手を止めた。
書斎には暖炉の火がつき、暖かい。暖炉の上にはエドワードとソフィーの結婚式の絵が飾られている。
ソフィーはカップをエドワードとエマの前に置いた。
「それは楽しみだ! ソフィーのお茶はいつもユニークな味がするから」
「はい。芸術的なお味で新鮮です」
「エマ、あなたまで。今日は大丈夫よ!…多分」
ハリソンがスコーンをお皿に移すと、ふんわりと素朴な香りがした。この香りが大好きだ。
「美味しい!」
「ソフィーと一緒なら何でも美味しいよ」
ユニークな味の紅茶を楽しみながら、エドワードが相好を崩した。
「良かった!」
褒められたと思い、素直に喜ぶ。
ふと、エマの髪留めが目に入った。
「エマ。あなたのその髪留め、とっても可愛いわね!」
ダイヤモンド、エメラルド、アメジスト、ルビー、エメラルド、サファイア、トルコ石の順に小さな宝石が並んだ煌びやかな髪留めは、エマのセンスとは少し違う。
「はい。リアム様に頂きました」
「リアム様に⁉」
「はい。ルビーが真ん中にあって、ソフィー様を思う私のようだとリアム様が下さったのです。断ったのですが、いらないなら捨てると仰るので」
「そうなの…」
ソフィーは驚いてそれ以上、言えなくなった。
ダイヤモンド(D)、エメラルド(E)、アメジスト(A)、ルビー(R)、エメラルド(E)、サファイア(S)、トルコ石(T)。この七つの宝石の頭文字をとると「DEAREST」となる。秘めた思いを宝石に託して贈るのがちょっとした流行りだ。
エマは気づいているのかしら? ちらりと伺うも、いつも通りの無表情だ。
美味しそうにスコーンを食べている彼女に、思い切って聞いてみた。
「エマ。あなたはその髪留め、どう思っているの?」
「はい。思いのほか使い勝手が良く、ドレス姿にも合うので便利です」
……うん。全然伝わっていないわ。これは多分、脈なしね。
ソフィーがリアムに同情したところ、エドワードがクスリと笑みを零した。彼も意味には気づいていたらしい。
「さて、アーロンに続くのは誰かな?」
今のところ有力候補は騎士団長のデクスター。実はソフィーの結婚式に出席したマリーが、彼に一目惚れし猛アタックをかけている。
放浪癖のあるジョシュアはまたどこかへ行ってしまったし、チャーリーは相変わらず研究に没頭している。
アイザックは犬の世話に忙しい。住居もさっさと騎士棟に移してしまった。どうも城での暮らしは合わないようだ。
「アーロンは、もうすぐ新婚旅行から戻ってくるわね。土産話が楽しみ」
「そうだね。私達もまた旅行でもしようか」
「いいわね!」
春にはブルーベルを、夏にはラベンダーを、秋には紅葉を、冬には暖炉の前で怪談話をして、寒空の下で星を見ましょう。
勿論、美味しい紅茶とスコーンは忘れずに!
無事に完結しました。ご覧いただいた皆様、ありがとうございました!




