エメラルド
宝石箱に入れておいたエメラルドの指輪が真っ黒に染まったことに気づいたのは、エマだった。エドワードが帰還する少し前のことである。
「ソフィー様!カトリーヌ様から貰った指輪が!」
「おばぁ様の指輪がどうしたの?」
「これを」
「え、どうして⁉ 手入れを間違えたかしら⁉ どうしよう。おばぁ様の形見なのに」
しゅんとするソフィーをエマが慰める。国一番の修繕士にも直すことは出来なかった。
美しかった緑色は今や見る影もなく、漆黒に染まっている。
しかし、見ている内に愛着がわいてきた。
「黒いままでもいいわ。だっておばぁ様から貰った大切な指輪だもの。それにテディの髪色と同じじゃない」
そう思うとより愛しくなる。
「うん!とっても良いわ」
この指輪を見る度に、カトリーヌとエドワードが思い浮かぶだろう。
ソフィーの右手薬指に、黒水晶のようなエメラルドが嵌められた。
窓の外から一部始終を見ていた妖精が笑う。
——千度を超す高温と、想像もつかない圧力に耐え、五億年の時を生きたエメラルド。
次にその不思議な力を持つのは、五億年後か、十億年後か、それとも……。




