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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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アンリの即位

 教会における審議の末、主皇ファビアーノと枢機卿は処刑。ジェイコブは身分と私財を剥奪された。


 エレーヌが偽者の聖女だったことを受け、免罪符を大金で買った信者達から猛批判を受けたことが大きかった。


 その後、エレーヌの姿が描かれた免罪符がそこら中に捨てられ、もはや紙屑同然となる。彼女は「稀代の魔女」として大陸全土に悪名を轟かせることとなった。


 ファビアーノが牛耳っていた領土は僅かな面積を残し、殆どがルキリア領となる。また新たに行われた主皇選で、ルキリア出身の主皇が単独の主皇の座を手にした。


 アンリはその功績を称えられ、国王として即位。同時にタズマ国の姫との結婚も発表し、ルキリア国は祝賀モードで溢れかえっている。




 アンリの戴冠式に出席した後、エドワードとソフィーは応接間のソファで彼と向き合った。


 半年ぶりのアンリは、爽やかさはそのままに見違えるほど男らしくなっていた。


 エドワードは見せつけるようにソフィーの肩を抱き、わざとらしく寿(ことほ)ぐ。


「ご結婚も含め、此度の事、誠に大慶に存じます」

(うるさ)い。やめろ、気持ち悪い」

「はは、失礼な」


「私からもお祝いを言わせてください。ご即位、おめでとうございます、アンリ陛下」

「ありがとう、ソフィー皇后陛下」


 ふふ、と同時に笑い出す。陛下呼びはお互いに慣れなかった。結局、様付けに落ち着く。


「アンリ様のおかげで、オスベルの民族争いも落ち着いたわ。扇動者も捕らえられたし。感謝しています」

「おかげで領土も広がったし、こちらこそ感謝しているよ」


 地図を見ると、ルキリア国とタズマ国で、オスベル帝国を囲う形になっている。


 陸地からオスベルを攻めようと思えばこの両国から侵入するしかないが、ソフィーがいる以上、アンリがそれを許さないだろう。


 つまりオスベルとしては、有事の際は海側を重点的に守ればよい。


 まだまだ働いてくれよ、とエドワードはワインを口に流し込んだ。


「姫君がお綺麗な方で驚きました。どんな方ですの?」


 興味津々のソフィーに、エドワードが口を挟む。


「ソフィーには敵わないよ。いや、しかし、とてもお似合いだった」


「意思は強そうだけど、あまり話すタイプではないようだ。まあ、これから知っていくよ」

「アンリ様の幸せを心より願っておりますわ」

「ありがとう、ソフィー様」


 アンリは心より礼を言った。



 ソフィー以外の誰かと結婚するなんて考えもしなかったのに…。国の為に生きると決めた途端に、結婚に前向きになった。これが最良の道だと自信をもって言える。


 アンリは清々しい気持ちでいっぱいだった。



「ソフィー様には感謝しています。どこにいても、あなたの幸せを一番に願っている。何かあればいつでも頼ってください」

「私がいるので、ソフィーがお前を頼ることは一生ないだろう。さあ、ソフィー、そろそろお暇しようか」




 エドワードの態度に苦笑しながら、部屋を出る二人を見送った。


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