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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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帰還

 オスベル帝国では、騎士達の帰還に国中が湧き、帰り道はパレードの様相になっていた。



「エドワード陛下!お帰りなさい!」

「帝国騎士団、万歳!」

「国民を守ってくれてありがとう!」


 行く道で花びらの雨が降る。騎士達は照れ臭そうに手を振った。


 城につくなりラッパの音が響き渡り、狼の国旗が二旗、大きく揺れる。それは騎士達が何度も夢見た瞬間だった。


 無事に帰ってきたのだという実感が沸き、泣き出す騎士の姿も目立った。過酷だった遠征もこれで本当に終わったのだ。忘れられない五カ月間となった。




 エドワードの姿を見た瞬間、ソフィーの目には涙が溢れ出す。


 ああ、無事に帰って来てくれた!


 グッと目に力を込めて堪えた。笑顔で出迎えなければ。


「お帰りなさい。エドワード陛下」


 言い終わらないうちに、抱きしめられた。久々の安心感に包まれ、今度こそ泣きそうになる。


 少し痩せただろうか。


「ご無事で、良かった」


 声が震え、涙が頬を伝った。


 エドワードの腕の力が強くなる。


「ただいま、ソフィー。心配をかけてごめんね。顔を見せて」


 ソフィーが顔を上げると、ラピスラズリの瞳がこちらを正視していた。そっと涙を拭ってくれる。


「やっと会えた。ソフィーが隣にいないことが、どれだけ辛かったか」


 ソフィーを感じたくて、またきつく抱きしめる。ローズウォーターの微かな香りがした。


 ああ、この香りだ。

 ずっとこうしていたい。



 それなのに…。

 抱擁の途中、ズビッ、フエッ、ウェッという、ムードのない音が斜め前方から聞こえてくる。


「アーロン……」


 号泣していたアーロンが、エドワードに名を呼ばれたことで、さらに泣き出した。


「陛下ぁぁぁぁ。良かっ、うっ、良かったっ。ご無事でっ」

「落ち着け」




 エドワードに頭をくしゃくしゃに撫でられるアーロンを見て、ソフィーは思わず噴き出した。


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