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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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失脚

 土砂降りの雨の中、アンリはマティスとともにルキリア軍を率い、主皇領へ奇襲をかけた。




「マティス、君は熱心な信者だったろう? 後悔はしていない?」

「ファビアーノ主皇の振る舞いは目に余るものがありました。正しい道に進む時が来たのです」


 馬が駆ける度に泥が大きく跳ねる。


 しかし雨に紛れたルキリア軍の存在に、主皇軍は直前まで気づけなかった。門番が慌てた頃には、国境は易々と破られ、侵入は簡単に果たされた。


 まさか聖域に攻め込んでくるとは思っていなかったのだろう。


 しかし、もはや聖域でも何でもない。



 騎乗しながら、懐かしいこの感じを味わう。以前攻め入ったのは主皇領ではなくオスベル帝国だった。


 過去生において、アンリ率いるルキリア国と、エドワード率いるオスベル帝国が戦争し、アンリは負けた。オスベルの二倍の騎士数を有していたにも関わらず、だ。


 理由は一つ。彼らは国として一丸となっていたのに対し、ルキリアは国より家門を重視していたから。


 その反省を活かし、今世ではまず国を一つにすることから始めた。今ならオスベルにも勝てる自信がある。



 それなのに——。



 ソフィーを皇帝代理にして権力を与えたのは、私にオスベルを攻め込ませないようにする為だ。その上で、私がソフィーを助けに動くことも計算に入れている。


 何て嫌な男だ。


 アンリはギリッと奥歯を噛んだ。鬱陶しそうに目を細め、顔に降ってくる雨粒を拭う。




「さあ!主皇達を取り押さえろ!」



 アンリの指示で騎馬軍が一斉に宮殿に攻め込んだ。


 二週間に及んだ戦闘の末、主皇達はすぐに降伏した。


 大量の武器は船に乗せられ、ここにはない。戦力さも歴然。加えて、味方につけていたはずのタズマ国が裏切ったことも大きかった。





「金と欲に塗れ、品性も教養も持たない主皇を許していては、神の怒りを買ってしまう。教会をあるべき姿に!」



 アンリの大義名分は近隣諸国にも受け入れられ、ファビアーノは敢え無く失脚した。


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