国を一つに
ソフィーは、エドワードの代理として公務に追われる日々が続いている。泣いている暇もない程、忙しかった。
「多忙な方がソフィーには合っているだろう」
ソフィーの性格を理解し敢えて役目を与えたエドワードに、エマは感心した。
権力を持つという事は危険が増すという事。それでもソフィーを信頼し、お飾りの皇后ではなく自由に動けるようにしたのだ。
エマはソフィーの護衛として、公務に付きそうよう指示を受けた。気取ったドレスを脱ぎ捨て、支給された騎士服を着こむと、すんなりと馴染む。
「今日は博物館の視察です。館長が案内してくれますので」
「分かったわ」
馬車の中で、資料を見ながらアーロンの説明を聞くソフィーの目は真剣だ。その後は、周辺を視察することになっている。
ソフィーはできるだけ城の外に足を運んで国民の前に顔を出すことにしていた。それがどれだけ重要かを教えてくれたのはアンリだ。
アンリは各領地の視察を欠かさなかった。領民とも気軽に触れあい、対話をする。
「アンリ様は私達を見捨てず、きちんと気にかけてくださる」
そんな言葉をよく耳にした。
博物館の視察後、領民が集まって来た。子ども達も大勢いて、瞬く間にソフィーは取り囲まれる。
屈んで子ども達と目線を合わせると、真剣な表情で質問を投げかけてくる。
「魔物が来るって本当⁉ 怖いよ」
「大丈夫よ。今、エドワード陛下や国の騎士達が、あなた達の為に魔物を退治に行っているから」
「本当?」
「ええ。彼らはとっても強いの!だけど、あなた達が応援してくれたら、もっと力になるわ」
「うん!僕達、陛下のこと応援する!」
「ありがとう!」
城の中から指示を出すだけでは、国民の信頼を得られないことをアンリが示してくれた。今、一番必要なのは国の意識を一つに纏めること。
私にはエドワード様のような武力も、エレーヌのような特別な力もない。
だから一人でも多くの人を巻き込んで、全員で国を守る。
あなたが帰ってくるまで、必ず役目を全うしてみせるわ!
ソフィーは城に戻るなり、ピリッとした空気が流れていることに気づく。嫌な確信を持ったまま、アーロンとエマを従えてアイザックの執務室へと向かった。彼は居住も騎士棟から城へと移している。
アイザックはソフィー達を見るなり、手のひらにすっぽり収まる小さな紙切れを見せた。間者から届いた手紙だ。
「主皇達が攻めてくる。大量の武器を購入していることが分かった。今、在処を探らせている」
三人は息を呑んだ。予想より行動が早い。
「騎士達がいない時を狙うなんて…。こちらは傭兵を集めるしかないわ」
「その点は心配いらない」
アイザックが鈴を鳴らすと、リアムとジョシュアを含む五名が姿を現した。いつものスーツ姿ではなく、騎士服を着て、帯刀までしている。
「彼らは?」
「有力貴族の子息達。リアムとジョシュア、デクスターの弟君にアーロンの弟君、そしてチャーリーの兄君だ。国の有事に集まってくれた各領の騎士団長達だ」
全員がソフィーに頭を下げた。
「では計画を伝える」
アイザックの手元には地図があり、主皇領が赤く塗りつぶされている。オスベルと主皇領の国境と、オスベル内にある主皇領の飛び地を起点に攻めてくることが予想された。
アイザックの指示を聞き終わった五人は、ソフィーに向き直り、片膝をついて頭を下げた。
「拝命いたしました。行って参ります」
「ええ。頼んだわよ。必ずや、この国に勝利を!」
「はい!」
顔を上げた五人は、頼もしい声を張り上げた。




