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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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戴冠式


 戴冠式当日はやはり雨だった。雨粒が小さいのが幸いだ。湿ったにおいに包まれる中、裾の長いドレスを着て、馬車へと乗り込む。側面に狼の画が入った式典の時にだけ使う特別な馬車だ。


 教会へ向かう沿道は、人で埋め尽くされていた。「皇后陛下、万歳!」と叫ぶ人々の後ろでは、国内外から集まった商人が飲食物や、珍しい品々を売っている。芝居を披露する一団も目に入った。


 盛り上がっているわね。良かったと胸を撫で下ろす。


 結婚したとはいえ、他国出身のソフィーが権力を持つことを快く思わない人間もいるだろう。これだけ集まってくれたのは、予想外だった。


 ソフィーが手を振ると「皇后陛下、万歳!」という声が強くなる。


 期待を裏切るわけにはいかない。喜びよりも覚悟の気持ちの方が大きくなった。


 教会内は重い空気を纏い、静まり返っている。


 誰一人として、にこやかに迎える者はいない。玉座に座るエドワードも真剣な表情だ。


 ソフィーも引き締まった顔つきのまま、一歩一歩、玉座へと近づく。


 玉座の斜め前では、主皇ファビアーノが待機していた。


 領土の拡大に積極的な主皇ファビアーノ。彼はまた公然と妻と愛人を侍らせていることも有名で、息子を甥と偽り、重要な役職に就かせていると専らの噂だ。



 エレーヌの背後にいる男。



 彼が…。思ったより若いわね。五十くらいかしら。


 重そうな真っ白の主皇服の胸元には、主皇領のシンボルである六角形の金バッジが光っている。彼の住む教会もまるで宮殿のようで、富と権力を感じさせる造りであるらしい。


 目の奥がギラギラとして、人を試すような嫌らしい視線をソフィーに送っている。



「戴冠式には主皇を呼ぶ」


 エドワードは申し訳なさそうにソフィーに伝えてきたが、ソフィーは望むところだった。エドワード不在時に一番攻め込んでくる可能性が高いのが彼だったからだ。


 玉座に辿り着くと、用意された真っ赤なマントを羽織る。


 最後に王冠を被せられ、そのまま座った。ずしん、と重みが頭から伝わってくる。


 隣で座るエドワードに、主皇から王杓と宝珠が渡される。エドワードの持つ宝珠が、主皇の手を介してソフィーへと届けられた。


 エドワードが王杓を、ソフィーが宝珠を持った。通常は皇帝が一人で両方持つ。皇后が手にするのは異例だった。これによりソフィーに権力が与えられたことになる。


 緊張はしなかった。むしろ怖いくらいに落ち着いている。


 そんな二人の前に、凡そ百名の選ばれた臣下がやって来てて「臣従の儀礼」を行った。これを行うことで、今回の対応に異論がないことを示す。


 一年も過ごせば、全員の顔が分かる。ソフィーは全員と目を合わせ、忠誠の言葉を聞いた。


 彼らとともに、オスベルを守り抜いてみせる!


 臣下達にもソフィーの気概は伝わっていた。自然と忠誠の言葉にも熱がこもる。



 臣従の儀が済むと、王杓と宝珠は丁寧に仕舞われていく。


 それを預かる主皇ファビアーノの手には、中指以外の全ての指に、にごつごつした指輪が何重にも嵌っており、それぞれに大ぶりの宝石が付いていた。


 こんな男には絶対に負けたりしない。ソフィーは改めて決意を固めた。




 戴冠式を終えたソフィーは、エドワードとともに教会のバルコニーに現れた。マントと王冠を身につけた二人に、終了を待っていた多くの市民から歓声が起こる。



「皇后陛下、万歳!」の声に、グッと涙を堪えたのだった。




 いつの間にか止んだ雨は、ソフィーを祝福するかのように虹に変わっていた。


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