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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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スタッグ・パーティーとヘム・パーティー

 ソフィーとの結婚式を目前に、エドワードは友人達とスタッグ・パーティーを開いている。独身生活の最後を、男だけで楽しむのだ。


 ちなみに女性の場合はヘム・パーティーといい、ソフィーも女友達を集めてヘム・パーティーを楽しんでいる最中だ。




 城の一室は、男が六人で寛ぐには狭いが、内々に話すには丁度良い広さだ。テーブルの上には、盛り合わせの料理に、ワイン、シャンパン、ピールと大量の飲料が並んでいる。すでにアルコールがまわり、砕けた雰囲気だ。


 リアムがエドワードの肩に腕を回した。


「エドワード、君は結婚なんてしないと思っていたよ」

「俺も思っていた。でも女神がいたら求婚するだろう? 取られたくない」

「なんだよ、それ。あー、羨ましい!」

「お前も早くいい人を見つけろ」

「あー、聞きたくない。親にも結婚を急かされている。でも独身も捨てがたいよなー」


 そう言いながら、エドワードから離れ、ジョジュアに絡んだ。


 ジョシュアは首に回された腕を気にした様子もなく、ワインを確認するようにグラスを小さく回している。

 ウェーブさせた髪が長い首筋にかかり、センスの良い着こなしと相まって、作り物のような美しさがあった。


 ジョシュアは美しいアーモンド形の瞳を、リアムに向ける。


「俺は一生独身だ。自分より愛せる相手などいない」

「えー、でも聖女様に会いに教会に通っているって女の子達から聞いたよ」

「私は教会にある彫刻を見に行っている。あれは美しい」

「なんだ。変だと思った」

「聖女より、私はエドワードの顔の方が好きだ。私と同じくらい美しい人間は君くらいだ」


 ジョシュアはエドワードの顎をクイッと上げた。昔からよくやるので、エドワードも慣れたもの。抵抗もせず、足を組んだまま近距離でジョシュアと目を合わせる。


「結婚したら構ってやれない。存分に見ておくがいい」

「はあ。私のお気に入りが、女に取られてしまうとは」

「それ、ソフィー嬢の前でやっちゃダメだよ」


 リアムの注意などジョシュアの耳には入っていない。リアムは二人を無視して、隣を向いた。

 デクスターは肉ばかり食べている。騎士団長という仕事柄、お酒は控えているようだ。


「デクスターは結婚しないの?」

「しない」

「騎士団長ともなれば求婚話なんていくらでもあるでしょ?」

「騎士道こそ我が人生。国に尽くすのみ」

「つまんなーい。ねえ今度、一緒に娼館に行こうよ!」

「一人で行け!」


「ハハハ。冗談だよ! アーロン、君もエドワードの世話ばかり焼いてないで、食べなよ」

「ありがとうございます。でも僕は大丈夫です」

「駄目だよ。スタッグ・パーティーは騒いでこそなんだから。さ、大好きなビールだよ、飲んで」


 では、と一口飲むと、すぐに饒舌になった。


「エドワード陛下がご結婚なんて!僕は嬉しいです!まさかこんな日が来るなんて!」

「あはは。相変わらず面白いね」

「飲ませすぎるなよ。これ以上飲むと絡みだすぞ」


 新しいシャンパンを開けようとするリアムをデクスターが注意する。ポンと天井までコルクが飛ぶのを全員が見つめた。


 アーロンは酒癖が悪い。ジョシュアを引きはがし、エドワードに抱きついた。


「僕は一生、陛下についていきます!愛しています、陛下!」

「はい、はい、知っているよ。リアム、飲ませるな!面倒くさい」

「今日飲まずにいつ飲むのさ。でもさすが婚約者がいるのに『陛下が結婚してからじゃないと結婚しない』って豪語していただけあるね」

「アーロンの為にも、結婚できて良かったじゃないか」

「いや、エドワードには、私こそ相応しい。考え直せ」


 個性豊かな友人達に、アイザックは目を細めた。長い黒髪を無造作に括っている。


「ソフィー様は、良い人そうだったね」

「いつ会った?」


 エドワードがぴくりと反応した。アイザックは焼菓子を食べる手を止める。


「犬の世話をしていた時」

「騎士棟に来たのか?」

「迷ったんだって。でもあいつら誰も吠えなかった。犬は人を見るから」

「フッ。それはそうだろう」

「そうです!ソフィー様は良い人です!」

「聖女にはこれでもかと吠えてたよ」


 全員が爆笑した。



 いつもは品のある彼らも、今日だけは羽目を外して楽しんだ。




 それはソフィー達、女性陣も同じだ。いつものお茶会のメンバーに、マリーも加わっている。友人として式に参列する為、オスベルに来てくれたのだ。


 久々の再開にお喋りが止まらない。マリーの話は相変わらず面白かった。


 コルセットを脱ぎ捨てて楽な服装のまま、思う存分に食べて飲んで踊って歌った。


 部屋中に、お花と、香水の香りが漂う。



 エドワード様といる時も勿論楽しいけれど、女同士も最高だわ!




 話は尽きることはなく、パーティーは次の日まで続いた。


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