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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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執事ハリソンの思い

 審議が終わり、ようやくエドワードとクリームティーを楽しめるのが嬉しい。




 ソフィーはエマを連れて書斎に入った。エドワードは既にソファに腰かけ、本を読んでいる。ソフィーを見つけると、喜色満面で立ち上がった。


「ソフィー! よく来たね。エマ嬢も」

「エドワード様、お待たせしました」

「今来たばかりだよ。さあ、座って」


 促されるままに、エマと二人で一つのソファに座った。エドワードとは対面する格好だ。


 執事長のハリソンがポットを持って現れる。


 スコーンの甘い香りと、紅茶の爽やかな香りが入り混じって食欲が増す。カップの中ではレモンの輪切りが浮いていた。


「レモンティーです。スコーンにはレモンカードを付けてどうぞ」

「レモンカード?」

「レモンのクリームですよ」


 黄色くて、とろぉっとしたクリームは、見るからに美味しそう。


「う~~ん!」

「酸っぱくて最高です」


 美味しい! 甘酸っぱくて、暑さの残る今の時期にぴったり! エマも気に入ったみたい。


 そこにレモンティー。一口飲むと、爽やかさが倍増した。


「あー、癒されます。何だかやっと落ち着けました」

「ハハ。お疲れ様。よく頑張ってくれたね」

「いいえ。結局、私はあまりお役に立てなくて…」

「そんなことはない。資質が認められたからこそ、選ばれたんだよ」

「そうなら嬉しいです」


 エマは早くもスコーンを一つ食べ終えた。紅茶をさっと飲んでから、同意する。


「当然です。エレーヌ様を選んでいたらこの国は滅んでいました」


 エマの言葉にソフィーは慌てたが、エドワードは納得して笑った。


「私も安心した。そこまで愚かならば議員の首を切らねばならないところだった」

「まあ、ご冗談を」


 ハリソンはそれが冗談ではないことを知っていた。最初からソフィー以外を后にするつもりなどないのは明白だった。


 自分の邪魔になると判断すれば、相手が誰であっても陛下は躊躇なく首を切るだろう。



 ハリソンが新しいスコーンをお皿に載せると、エドワードは何も付けずにスコーンを口に運んだ。


 一口食べては、ソフィーやエマと会話をする様子を、ハリソンは微笑ましく見守る。


 エドワードは六歳の頃に毒殺されかけて以来、最低限の物しか口にしなくなった。彼にとって食べることは苦痛以外の何物でもない。


 薬として一部に飲まれていただけの紅茶を、日常に取り入れたのもエドワードだ。殺菌作用に加えて、コーヒーより色が薄く異物の混入に気づきやすい。


 そんなエドワードが、ソフィーが来てからというもの、間食までするようになった。それもあんなに楽しそうに。



 こんな陛下が見られるとは…。



  城の雰囲気が以前より明るくなったのも、ソフィー様のお人柄があってこそ。陛下を光で満たしてくれたソフィー様ならば、きっとこの国も(さや)かに照らしてくださるだろう。



  ソフィー様が選ばれて本当に良かった。



 ハリソンは新しい紅茶をカップに注いだ。


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