表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/88

ソフィー派とエレーヌ派

 外では憂鬱な雨が降り続いている。まるで自分の心のようだとソフィーは思った。


 ここ最近はずっとこんな天気だ。


 宣言通り、あれからエドワードは一度も顔を見せていない。




 火曜の恒例のお茶会の日だが、果たして何名が集まってくれるか。先日の議会を思い出し、ソフィーは少し不安になった。


 あの一件で自分の力不足を痛感した。エレーヌのように人の心を動かす力が自分には足りない。エマの顔を見た瞬間に泣き出してしまった。


 しっかりしないと!やれることをやるだけよ!まだ終わったわけではないのだから。


 自分を奮い立たせ、笑顔で令嬢達を迎え入れる。


 ピンクの部屋を大輪の花々で彩った部屋は、着飾った令嬢達のおかげでさらに華やかさを増した。審議の結果は耳に入っているだろうに、変わらず好意的でとりあえずは胸を撫で下ろす。



 さらに三人の令嬢達が現れ、ソフィーに挨拶をした。


「ソフィー様、ご招待ありがとうございます。どうぞこちらを」

「ありがとうございます!」


 招待のお礼にと渡されたのは、黄色の花束。


 渡してきたのは聖女の熱心な信奉者と名高いリリー嬢とその取り巻き二人だ。


 すでに着席していたご令嬢達は眉を顰めて顔を見合わせている。


 ソフィーは花束に目を移した。


 下品とされる黄色の花束を持ってくるなんて。


 ソフィーは口の端をこれでもかと引き上げ、大きな声を出した。


「黄色のお花なんて初めて頂いたわ!とっても気に入りました。贈り物って本当にその方のセンスが表れますわね!」

「はっ⁉」

「そうだわ!珍しいお色だから、後でエドワード陛下にもご覧いただきましょう!きっと驚くわ」


 リリー達はそれ以上何も言えなくなった。空いている一番端の席へ、三人静かに着席する。


「全員集まったようですね。それではお茶会を始めましょうか」


 ソフィーは何事もなかったかのように挨拶をした。三人以外が意図を汲み、会話の花を咲かせてくれたおかげでお茶会は明るさを取り戻す。


 ひと悶着あったが、美味しい紅茶とお菓子で場が和んだ。


「いつもながら芸術的なお菓子!」

「食べるのが勿体ないわね!」

「紅茶にマシュマロが入っているわ!とっても美味しい」


 二十名程のご令嬢が集まりキャッキャッと話が続く。お砂糖のような甘い空気が漂っている。


「今度の夜会でジョシュア様にダンスのお願いをしようと思っているの」

「リアム様はどうしたのよ?」

「リアム様は遊び人ですもの」


 やはり年頃の令嬢が集まると、魅力的な男性の話になる。頬を染める彼女達はとても楽しそうだ。


「エドワード陛下とも幼少期からよくご一緒に過ごされていて、そこにアーロン様が一歩引いて控えていらっしゃるのも素敵で!」

「そうなのね。ジョジュア様にはまだお会いしたことがないわ」


 ソフィーの言葉を受け、令嬢達が説明してくれる。


「ジョシュア様はご留学先から帰国されたばかりなので」

「とてもお洒落な方で、その美貌ときたら!まるで彫刻のよう!」


 興奮しながら同意する彼女達に、水を差す声が届いた。それまで黙って聞いていたリリー達だ。下品な笑みを顔に貼り付けている。


「あら、ジョシュア様なら毎日のように教会に通っていらっしゃるわよ」

「それはもう熱心で。きっとエレーヌ様に会いにいらしているのよ」

「ソフィー様にはまだ一度もご挨拶がないのにねぇ。まあエレーヌ様の美しさには敵わないものね」


 リリー達がソフィーに嘲るような視線を投げると、他の令嬢達からスーッと笑顔が消える。

 バチッと火花が見えた気がした。


「あら、ジョジュア様は幼い頃から教会に通われていたわよ? 勝手に聖女様目当てにしないでくださる?」

「そうよ。ジョシュア様の敬虔さを、あなた達に汚されたくないわ!」

「ソフィー様!私達はこれからもソフィー様についていきますわ」

「私も!エドワード陛下がお選びになったのは、聖女様ではなくソフィー様ですもの!」

「え、ええ。ありがとう…」


 戸惑うソフィーを横目にリリーが畳みかける。


「ご存知ないの? 先日の議会で皇后の座はほぼエレーヌ様に決まったのよ? あなた達も取り入る先を変えた方がいいのではなくて?」


 それを聞き、いつもは上品な令嬢達がリリーを睨みつける。


 その目つきに苛立ったリリーは、バンッと両手で机を叩き、その勢いで立ち上がった。


「国の為を思うなら聖女であるエレーヌ様一択でしょ⁉ あなた達は非国民よ!他国の人間のくせに皇妃は嫌だなんて、聖女様を差し置いてよくそんなこと言えるわね。ソフィー様が皇妃になれば全て丸く収まるのよ⁉」


 そうよ、そうよ、と取り巻き二人も立ち上がる。


 これには令嬢達も黙ってはいられない。


「非国民ですって⁉ あなた達こそ教会の回し者ではないの⁉」

「議会なんて関係ないわ!愛する人と結ばれるべきなのよ!陛下に国の犠牲になれと言うの⁉」

「愛しているからこそ、他に女性を娶られるなんて耐えられないのよ!乙女心が分からないの⁉ お相手が聖女様だって例外ではないわ」


 ソフィーは頭が痛くなった。


 白熱するこの議論。実は各社報道機関も二極化して伝えている。今や、ソフィーは悪者でもあり、ヒロインでもあった。


 その場は何とか収め、全員が帰った頃にやっと力が抜ける。


 疲れた…。


 でも私を支持してくれる人も大勢いるのね。




 庇ってくれた令嬢達を思い出す。刺激的な会だったけれど、おかげでいつもの元気を取り戻すことができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ