カフェオレ
ソフィーがベッドの上で目を覚ますと、不安と安堵が入り混じったような、何とも言えない表情のエドワードが目の前にいた。
ベッドの近くに二脚の椅子を置き、エマと一緒にソフィーが起きるのを待っていたのだ。傍らには膨大な量の書類が置かれている。
「ソフィー‼良かった!どれだけ心配したか」
「…エドワード、陛下」
名を呼ばれた瞬間、ソフィーに抱きついた。
「ああ、ソフィー。思い出したんだね」
「はい。…全部」
言うなり、ソフィーは泣き出した。
声を上げて子どものように泣くソフィーをあやすように、静かに髪を撫でてやる。
「もう大丈夫だよ。私がいるから」
その言葉に安心して、何度も頷いた。
全部思い出した。
フィフィは夢の中の人物なんかじゃない。
私だ!
私だったんだ‼
感情がぐちゃぐちゃで、言葉が見つからない。混乱が涙となって流れ出し、なかなか止められなかった。その間、エドワードは黙って背中をさすってくれた。
「…もう、大丈夫です」
鼻をすすりながら、エドワードから離れる。人生でこんなに泣いたのは初めてだ。泣きつかれて頭がぼうっとする。
医師の診断は異常なしだったが、今日はベッドで様子を見ることになった。
エマが用意してくれた白湯をゆっくりと口に含む。
五日間眠り続けていたらしい。
いつも表情を崩さないエマが憔悴しているのが分かった。いつもはピンと背を正しているのに、今は椅子に深く腰掛け、背中を預けている。
エマにも心配をかけてしまったわ。それにエドワード陛下にも…。
「そうだ!陛下、腕!」
エドワードの右腕には包帯が巻かれていた。
「かすり傷だよ。そんな顔をしないで」
「…私、陛下にこんな怪我を」
「これは勲章だ。ソフィーを守ることができたんだから。それよりも忘れられたことの方がずっと痛かったよ」
「ご、ごめんなさい…」
「いいよ。二度と忘れられないよう、これから心に刻み付けていくから覚悟して」
至近距離のエドワードの顔にドキッとする。
エマがベッドに近づいた。
「フィフィ様は、どうなったのですか?」
「彼女は、私の中にいるわ」
ソフィーは目を閉じ、両手で胸を抑えた。
少し前までは、同じ器に二つの違う人格が入っていた感覚だったのが、今は完全に融合している。フィフィとしても体験も、ちゃんと自分の経験に感じられた。
「私がフィフィだったの。何だかとっても不思議な気分」
「それでは、今までの夢での辛い体験は全部…」
「ええ。私が実際に体験したことだったの。気づかないなんて馬鹿ね」
「そんなことは」
「でも私、嬉しいのよ。だって私がフィフィなら、私が幸せになれば彼女も幸せになれるってこと。私が彼女を幸せにしてあげられるってことでしょう?」
エドワードとエマは二人で顔を見合わせ、噴き出した。完全にいつものソフィーに戻っている。
その日は三人でスコーンと一緒に、エマが淹れたカフェオレを飲んだ。
「たまにはカフェオレもいいね」
エドワードが褒めると、「はい!」と嬉しそうにソフィーが頷いた。




