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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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不穏な食事会

 帰国の二日前の夜、アンリの提案でカジュアルな食事会が催されることになった。


 エドワードから時計回りに、ソフィー、エマ、クリフ、アンリ、エレーヌの順で円卓を囲っている。


 火の灯った燭台がテーブルセットされた円卓を照らす。


「あ、あの…ジェイコブ主司の都合が合わず、私クリフが同席させていただくことになりました。しゅ、(しゅ)(さい)の身ですが、ご容赦ください」


 主司は国の教会員を纏める立場で、主祭は各地区を纏める立場だ。


 十分すごい肩書きなのに、まだ若いせいか随分とオドオドした青年だ。真っ黒の髪をきっちりと後ろで括り、長いローブを着ている。視線をキョロキョロとさせて落ちつかない子どものようだった。



 使用人がワインを注いでいく。十人で対応するようだが、やはり少ない。


 壁側には警護の為の騎士が気配を消して控えている。


 前菜は焼き野菜だった。欲しい野菜を使用人に告げ、取ってもらう。


 エレーヌがサラダをフォークに刺しながら、話題を提供した。


「私、ピスラの退治にも参加したの!とても大きくて怖かったわ!ギーギー鳴くのよ」

「それは、それは。大変だったでしょう」

「ええ、とっても!でも私がいることで騎士達が頑張れると言ってくれるの」

「あなたのおかげで、勇気が出ると騎士達が褒めていましたよ。ピスラの退治は命がけだ。間近で見て改めて感じたよ」


 エドワードが感心し、ソフィーも同意する。


「私も陛下とともに、ピスラの確認をさせていただいたけれど、あんなものが実際に飛んで襲ってくるなんて、考えただけでも恐ろしい。退治に参加なさったなんて、すごいわ!ところで、聖女様は具体的に何をなさるのです?」

「私は騎士様の後ろでお祈りするのです。怪我をされた方がいれば、その方の元へ向かい手を取って祈ります。そうすれば治るのです」


 祈りのポーズをとるエレーヌに、クリフが尊敬の眼差しを向ける。


「エレーヌ様の御力は、ほ、本物です!エレーヌ様に手を握られると、痛みが和らぐと騎士の間で評判で…」

「恥ずかしいわ、クリフ!私なんて、まだまだよ」

「そんなことないですよ!歴代の聖女の中でも、い、一番だって、皆が」

「そんな!今までの聖女様と並べるだけでも光栄なのに」


「そう言えば、歴代の聖女様はこの国の皇帝陛下とご結婚されているとか」


 アンリの言葉に、しんと場が静まった。


 ワインを片手に持ったアンリが、エドワードを見据える。


 ちょうど使用人がローストチキンを用意し始めた頃だった。


 全員の視線がエドワードとエレーヌに注がれる。エレーヌは照れながら、エドワードを上目遣いに見た。


「ええ。私もそのように聞いているわ。だから国民が期待してしまって」

「全員ではないですよ。私の結婚相手はソフィーですし」


 エレーヌのことは無視し、ソフィーの肩を抱いてアンリに見せつける。


「しかし国民の中では『聖女様を皇后に』との声が高まっていると聞きます」

「一部です。それにソフィーを見れば、そんな声もなくなるでしょう。彼女と一緒なら私は何でも出来ます」


 最後の言葉はソフィーに向かって告げられた。


「私も、エドワード陛下とともに、この国の為に精いっぱい尽くす所存です。国民の皆様にも認めていただけるように、努力してまいります」


 ソフィーがアンリの前でそう明言すると、エドワードは少し驚いた後、嬉しそうに目を細めた。


 さらに口を開きかけたアンリを遮るように、エレーヌが大げさに声を上げる。


「このチキン、とっても美味しいわ!」


 エレーヌの一言で、話題は料理へと移った。ローストチキンの上にかけられたタラゴンの緑が美しい。


 ソフィーも一口大に切り、口へと運ぶ。


 タラゴンの独特の香りと凝った味で、どんどん食が進んだ。


「美味しいわね、エマ」

「はい。久々にタラゴンを食べました」


 タラゴンはルキリアではよく使われる、淡白な料理のアクセントにぴったりのハーブだ。スパイシーさと爽やかさがあり、これを入れるだけで複雑な味になる。


 アンリがいる為、ルキリア風の料理にしたのだろう。懐かしい味に、ソフィーも食べる手が止まらなかった。


 ワインがすすんで、お喋りも弾む。


 デザートが出てきた辺りで、頭がフワフワとしてきた。


 飲み過ぎたのかしら? いつもなら、こんな量でここまで酔わないのに…。



 ぐわんぐわんと脳が回ると同時に、吐き気がした。急に立ち上がったソフィーを皆が驚いて見る。


「ソフィー?」



 ああ、駄目。気持ちが悪い。


 喉が、乾く…。お水…!


 目が、まわ、る…。立っていられない…。



 エドワードが倒れそうになったソフィーを慌てて支える。 


「ソフィー!」


 エドワードの声が遠くに聞こえた気がした。



 目の前では円卓に置かれた蝋燭が煌々と揺れている。ソフィーはそれを無意識に見つめた。


 火だ。


 ぼぉっと燃える火が、どんどんと大きくなっていく。


 赤くて、熱い。


 途端に蝋燭の火が、ごおぉっと勢いを増して、ソフィーに襲いかかってきた。逃げる間もなく炎に包まれる。


 熱い!熱い!


 逃げたいのに体が固定されていて動けない。


 誰か助けて!


 炎はより勢いを増し、ソフィーの体を焼いていく。



 炎越しに、アンリの顔が見えた。


 一瞬、目が合った。




 ()()()と同じ光景。




「医者を呼べ!毒だ‼ソフィー!しっかりして!」

「ソフィー様!」


 エドワードやエマが必死で名を呼んでも、反応しない。


 開ききった瞳孔に、回らない呂律、早い心拍。何の毒だ⁉


 銀には反応していないことを確認し、エドワードは膝をついた状態でソフィーを後ろから抱え込んだ。


「水です!早く吐き出させましょう!」

「分かっている!」

「怖いわ!私達は大丈夫なの⁉」



 エドワードが何度か吐かせたが、意識混濁のまま、医師達によりそのままベッドへと運ばれていった。


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