聖女との顔合わせ
大広間ではベールを被った聖女が一人椅子に座っている。その周りに侍女と騎士が合わせて十名ほど、聖女を囲んで楽しそうに会話をしていた。
「お待たせしました。聖女様」
エドワードが声を掛けると、侍女と騎士が一斉に後ろに下がり、頭を垂れた。厚い絨毯が足音を吸収し、気づくのに遅れたようだ。
「遅れて申し訳ありません。何より重要な案件がありまして…」
「いいえ。おかげで彼らと楽しい時間を過ごせましたわ」
「そう言って頂けると、心が軽くなります」
聖女の声は、まるで鈴のようだった。
聞き知った声に感じ、なぜか勝手に鳥肌が立った。
まさか…ね。
「聖女様に、私の愛する后を紹介したい」
「ルキリア国から参りました。グレイヴィル侯爵家長女、ソフィー・グレイヴィルと申します。お目にかかれて光栄です、聖女様」
たっぷりと時間を取った後、聖女が鈴のような声を響かせる。
「お初にお目にかかります。オスベル帝国の聖女、エレーヌ・マクミランです」
バサッとベールを後ろに流し、聖女が顔を晒す。
彼女の動作がスローモーションのようにソフィーの目には映った。
絹のような金髪に、青い瞳、ぷっくりした唇、上気した頬、誰しもを虜にする微笑。
あの頃のままの美しさをたたえた彼女は、間違いなくソフィーが知っているエレーヌだった。
驚きから瞠目するばかりで、声も出なかった。
…エレーヌが、聖女ですって⁉
驚くソフィーなどお構いなしに、エレーヌはエドワードだけを視界に捉える。
「エドワード様。先日はお茶会にご参加下さり、ありがとうございました!夢のような時間でしたわ。また是非いらしてください」
「ええ。その時はソフィーとともに伺います」
「…そうですわね。ソフィー様も是非」
「…ありがとうございます」
ぎこちない空気が流れる。まだ状況を呑み込めずにいた。
エドワードは、ちらりとソフィーを見やり、着席を勧める。
「さ、立ち話もなんですから、食事にしましょう」
「そうですわね。エドワード様が私の為にご用意くださったと伺いましたわ。テーブルのお花もとても私好みで、嬉しくて」
「何よりです」
食事中もこういった会話が延々と続いた。
久しぶりのまともな食事にも関わらず、全く味がしなかった。




