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夢見がち令嬢と狼の牙  作者: 松原水仙


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満点の星

 夕食後、エドワードに夜の散歩に誘われた。夜は少し肌寒かった。エドワードはすぐにそんなソフィーに気づき、着ていた上着を掛けてくれる。


「ありがとうございます」

「もう寒くない?」

「はい!」


 ソフィーの手を取り、ゆっくり歩き出した。歩幅を合わせてくれているのが、くすぐったい。恥ずかしさから少し俯いて歩いた。


「あの後は何をしていたの?」

「エマと探検をしていました」

「楽しそうだね。どうだった?」

「一階とメインホールは見たのですが、地下までは行く時間がなくて…」


「地下と塔は()()って使用人達の間では有名だよ」

「え⁉」

「今度一緒に見て回ろう」

「はい!」


 嬉しそうなソフィーにエドワードが苦笑した。


「怖がられるかと思ったのに」

「私、帝国のミステリーやホラーも大好きで、よく読んでいたんです!」

「そうか。怖がって抱きついてきては、くれなさそうだね」

「そんなことしません!」


「残念!でもホラーが好きなら、冬になったら怪談話でもしよう」

「賛成です」


 温かい暖炉の前で怪談話をするのが、冬の定番だ。


 エドワードは先の約束を沢山してくれる。その度に胸がきゅうとなった。


「陛下はお優しいのですね」


 何気なく呟いた言葉にエドワードが目を丸くする。


「優しい? 私が?」

「ええ。とっても」

「廷臣が聞いたら倒れそうだね…。私が優しいのは、あなたにだけだよ」

「私はこの国に来てから、陛下にとても良くして頂きました。感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます、陛下」


「…ソフィー」

「はい」

「抱きしめても良いかな?」

「ええ」


 エドワードはそうっとソフィーを抱きしめた。ソフィーもエドワードの背に手を回す。


 ああ、あと何回こうすることができるかしら。


 自然に力が入った。温かい。


「ソフィー。空を見て」


 抱き合った態勢のまま、エドワードに促されるまま上を見ると、満点の星が目に飛び込んできた。


「わあ!」


 城にいた頃は、雲で覆われて殆ど見えなかった空が、星の光でいっぱいだ。


「綺麗!」

「この辺りは良く星が見えるんだ。ソフィーと一緒に見たくてね」

「……とっても綺麗です」


 美しい夜空と、優しい言葉に涙が出そうになった。


 目に焼き付けよう。この人と、今日の星空を。


「流れ星が見られるといいですね」

「そうだね」


 願うことは決まっている。




 けれど結局、流れ星は見られなかった。


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