§ 判決
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投獄されてから三か月後。
ソフィーに言い渡されたのは死刑判決だった。
稀代の悪女の処刑を一目見ようと大勢が処刑場に集まった。王妃が公開で処刑されるなんて前代未聞の出来事で、国民は興味津々だ。
公開処刑は庶民の楽しみであり、ガス抜きでもある。通りでは屋台が広がり、人々は飲食物を片手にその時を心待ちにしていた。
「ねえ、まだかしら?」
「予定時刻はもう少しよ。ワクワクしちゃうわ」
着飾った貴族の令嬢達がお菓子を口に運びながら高みの見物をしている。久々の面白い催し物だ。
「王妃の公開処刑なんて初めてでしょう? 悪いことはできないものね」
「どんな顔をしているのかしら? もっと近くで見たいわ」
「近くは怖いわ。それより、次はタルトタタンが食べたいの。すぐに用意してちょうだい」
あ、来たわよ!と誰かが叫び、粗末な服を着て、両手を前で縛られたソフィーが現れた。
彼女を見るや、民衆から石や卵が投げつけられる。騎士達はそれを止めることもなく彼女を処刑台の前まで引っ張った。
処刑方法は一番重いとされる火刑であった。
「早く火をつけろ!」「魔女め!骨まで燃やし尽くせ!」
野次が次々に飛ぶ。
ソフィーは地面に突き刺した木の棒に両手両足を括りつけられた。
「いよいよ始まるわ」
「ここまで悲鳴が聞こえるかしら?」
令嬢達は視線を処刑上に向けたまま、暢気にお茶を啜っている。
「よりによって火刑だなんて」
「いいじゃない。あんな女」
火刑では骨すら残らない。骨が灰になるまで燃やし尽くされるからだ。
そしてレジリオ教においてそれは、「魂の消滅」を意味する。その為、最も重い処刑法と言われ、重罪人を見せしめにする時によく使われた。
罪状が読み上げられると、野次が激しくなった。
「死ね、魔女が!」「裏切者!」「国の恥だ!」
——違う!そんなことしていないわ!
足元に油をしみ込ませた藁が山積みにされていく。ソフィーの膝より高くなった。
——やめて!
処刑執行人の一人が腕を振り上げた。処刑開始の合図だ。
——いやっ!怖い!
松明を持ったもう一人の処刑人が、藁に火をつける。
——お願い!許して!
瞬く間に火が上がった。
熱い!
歓声の声が、ごおおぉっという火の音に取って代わる。
熱いっ!熱いっ!熱いっ!
そしてその火の音をかき消すような大きな叫び声が、処刑上に木霊した。
゛あ゛あぁ゛つ゛つ゛ぅぅ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛い…‼
ソフィーの断末魔の叫びは、離れた場所でお茶を飲んでいた令嬢達にもはっきりと聞こえた。
そしてそれは、お忍びで見ていたアンリの耳にも届く。
風によって炎は増々燃え上がり、大きくなる。
炎が消えた後には、真っ黒い塊が一つ、地面に転がっていた。
ソフィー・グレイヴィル死去。二十四歳の冬だった。
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