§ 妊娠
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牢からは数日で出ることとなったが、ソフィーにとっては部屋も牢獄も変わりがなかった。
今ではエレーヌという女神を苦しめる魔女とまで噂されている。街中では聖女のようなエレーヌと、髑髏のような形相のソフィーが対をなしたポスターが貼られているのだと、侍女がわざわざ見せてくれた。エレーヌには光が当たり、ソフィーの背景は真っ黒だった。
ジョルジュとは一度も会えていない。もう会えないのだろう。
一人だけ付けられた侍女は、世話をすることはなく完全に監視役だ。毎日のように陰口を叩かれながら書類に向き合うだけの日々。
もうとっくに心は死んでいた。
窓は開かないので飛び降りることは出来なかった。どこかで餓死しかないと思っていたのかもしれない。食事が喉を通らず体がふらつく為、ベッドで寝ることが多くなった。きっと今の私はあのポスターと同じような顔をしているのだろう。
「お姉様、また体調を崩されたのですって? 私、心配だわ」
エレーヌがベッドの近くの椅子に腰掛け、ソフィーの顔を覗き込む。
侍女達が大げさにエレーヌの優しさを褒め称えた。
「エレーヌ様、ソフィー様の代わりにお茶会や舞踏会に参加されてお疲れなのに、毎日のようにソフィー様を見舞われて…なんてお優しいのかしら」
「本当。本来ならソフィー様のお仕事なのに」
「そんなこと言わないで。困っている人がいたら助けるのは当然だわ」
「エレーヌ様。まるで聖女様のようだわ」
ニコリと微笑んでその言葉を受け入れ、やつれ切った姉の手を取った。
「お姉様。私ね、今日はお伝えしたいことがあるの」
「…何かしら?」
力が入らない。しわがれた声になる。
「私ね、アンリとの間に子どもができたの」
「…は?」
頬を染め嬉しそうに話すエレーヌの言葉が理解できなかった。
…子どもができた?
子どもができないから、その為だけに私は王太子妃にさせられたのではないの…?
今までの私の苦痛の日々は一体何だったの…?
声が出ない。代わりに涙が溢れてきた。
「まあお姉様。そんなに喜んで下さるなんて私、嬉しい。アンリもとても喜んでくれているの。私との子が嬉しいんですって。私、今とても幸せなの」
エレーヌが何かを話し続けているが、歪んで聞こえる為に内容が入ってこない。
ああ、でもこれで救われるのかもしれない。きっとこれで解放される。
ぼやけた白い天井がぐにゃりと歪み、そのまま意識を手放した。
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