決別
それ以降、エレーヌの行動はエスカレートしていく。自分で事を起こしては、被害者のように泣き、ソフィーに疑いの目を向けさせる。母はいつもエレーヌの味方をし、ソフィーを見ることは次第になくなっていった。
当然、使用人達の態度も変わり、部屋以外には居場所がほとんどない状態となった。
それでもエマだけはソフィーを信じ、変わらず味方でいてくれた。エマの存在にどれだけ支えられているか。
それなのに…。
「…今、何と言ったの、お母様」
「だからね、エマをエレーヌの侍女にしたいの」
メラニーは自室のソファに座り、コーヒーを飲みながら何でもないことのように言った。ソフィーはドアの近くに立ったまま彼女を凝視する。
「なぜですか⁉ エマは私の侍女です!知っているでしょう⁉」
「ええ。だけどエレーヌがエマを侍女にしたいと言うのよ。あなたには代わりの侍女を用意するわ」
何を勝手なことを!
「あり得ません!なぜエレーヌが優先されるのです?」
「そんなの当たり前でしょう。あなたはお姉さんなのだから」
今までもそう言われ、お気に入りのドレス・髪飾り・靴、全てをあげてきた。
エレーヌに敵意などないことを示す為でもあり、母と元のような関係を築きたいという願望もこもっていた。こんな状況になった今でも母の事は大好きだから。本当は優しい人だと知っているから。
だけど——。
エマを取られるくらいなら、もうこんな母などいらない!
そう感じた瞬間、嘘のように吹っ切れた。
「お断りします!エマは私の侍女です。姉だから譲れなどと、ふざけたことは二度と仰らないで下さい。お話が以上でしたら、これで失礼します」
踵を返し、歩を進めようとする背に声が被せられた。
「待ちなさい、ソフィー!話はまだ終わっていないわ!」
「まだ何か?」
「あなた、本当の妹ではないエレーヌの事が嫌いなのでしょう。だからあんな意地悪ばかり。もう止めてちょうだい!」
いつもなら部屋で泣いただろうが、今は寧ろ可笑しかった。
あんなに気高く上品だった母が、今はなんとヒステリックで醜い声を発することか。
「お母様!」
お腹から出した大声に、メアリーがビクリと肩を震わせた。ソフィーはメラニーの眼前まで進み、彼女と目を合わすように腰を折る。
「寝言は寝て言って下さい。起きているのなら、寝ぼけ眼の曇った目をそろそろどうにかして下さいな」
最大限の笑顔で言ってやった。もはや目の前にいるのは母ではない。呆然とするメラニーを置いて部屋を出た。




