●第三話 掃除
「じゃ、二人ともお留守番よろしくね」
「うん、お母さん」
「はい」
「掃除が終わったら、好きにして良いぞ。じゃ、行ってくる」
「「行ってらっしゃい」」
今日は日曜だが、父さんと真理亜さんはそれぞれ用事があるそうで、おでかけだ。
つまり、家には僕と葵だけ。
しかも、ときどき家にやってくる真夜も今日はバスケの練習試合があるそうなので、邪魔が一切入らない。
正真正銘の二人きりだ。
「はは」
「ふふ」
父さん達を玄関で見送ったあと僕らはちらりとお互いの目を見てほくそ笑む。家の中なら人目を気にしなくていいし、今この瞬間からお家デート開始と言っていいだろう。
「じゃ、先に掃除を済ませておくか」
「そうですね」
まず自分の部屋に掃除機をかけ、それから二階の廊下は僕、一階の廊下は葵と、それぞれ分担してモップがけしていく。風呂場も掃除して残りは一階の部屋だけだ。
葵と一緒にいったん部屋を片付けて、掃除機をかけていく。二人での作業なので一人のときよりも簡単に掃除が終わった。
「じゃ、こんなものか」
「はい。これも納めておいていいかな。悠真くん、これはどこに仕舞ったらいいですか?」
葵が机の上に出しっぱなしになっていたガムテープを持って聞いてくる。
「ああ、それはそっちの棚の中に入れておいて」
「はい。あれ? わぁ、これって、ひょっとして悠真くんのアルバム?」
そういえば棚に納められているアルバムがあったな。
「そうだよ」
「……見ていい?」
「まぁいいけど」
ちょっと気恥ずかしいが、家族や恋人になら、隠すようなものではない。
「やった。楽しみです」
他人のアルバムなんて別にそんなに楽しくないだろうと思ったけれど、葵のアルバムだったら、やっぱり僕も見てみたい。葵が小学校の頃とかってどんな感じだったのだろう。きっと可愛いに決まっているけれど。
「わぁ、ちっちゃい。悠真くん、女の子みたい」
机の上にアルバムを広げるなり、葵が興味津々の様子で声を上げた。その写真には庭で僕と真夜が写っている。ビニールプールで真夜が撃ってくる水鉄砲を防御している僕や、水を掛け合っている写真だ。こんなこともあったなぁ。懐かしい。
「小学校に上がる前の写真だからね」
「へぇ、もうこの頃から真夜さんと一緒なんですね。なんだか羨ましいなぁ」
「まぁ、幼なじみだからね。でも、葵とはずっとこれから一緒だし」
「そ、そうですね……」
言った僕も恥ずかしかったが、葵も意識したようで顔が少し赤くなった。
「次は――あ、これは悠真くんのお母さん?」
アルバムのページをめくったが、そこには離婚する前の母さんの写真が写っていた。
「そうだよ。もうずっと前に離婚しちゃったけどね。僕が小学校三年のときだ」
そういえば母さんが机に手紙だけ置いて出て行ったときも、六月だった。
「ああ……、うちも前のお父さんが離婚してるんですよね」
「うん」
まぁ、思い出と言っても、この話はあまり面白い話ではない。葵がアルバムをパタンと閉じた。
「じゃ、アルバムはこれくらいで。悠真くん、また今度、見てもいい?」
「もちろん、好きなときに見てもらっていいよ」
「ありがとう。じゃ、お茶を入れますね」
「ああ」
あのアルバムには今から葵や真理亜さんの写真も増えていくことだろう。いや、二人きりの写真はスマホやPCだけに入れておくかな。
「葵、写真を撮って良い?」
「いいですけど、今?」
「うん。誰にも見せないから」
「は、はい。じゃあ」
はにかんだ葵は軽くポーズを取ってくれた。パチリ。
「撮れたよ。ほら」
「ううん、もっと別の服が良かったかな」
「ええ? 今着てる服も良いと思うけど」
「ど、どうも。じゃ、次は一緒に撮りましょう」
「ええ? 僕も」
「そうですよ。だって私だけだと不公平じゃないですか」
それもそうだ。
「わかったよ。じゃあ、こうして……と」
二人並んで自撮りモードに切り替えてフレームを合わせようとするが、葵がもっと近づいてくれないと、上手く入らない様子。
「葵、もっとこっちへ」
「は、はい」
「もうちょっと」
彼女を抱き寄せる。
「ひゃっ」
「ああ、ごめん」
「い、いえ」
「じゃ、撮るよ?」
「はい」
パチリと。ちょっとどぎまぎした表情の葵が写っているが、これも可愛い。
「ふふ、じゃあ、もう一枚いいかな?」
「え、ええ。いいですよ?」
「嫌なら、別にいいけど」
「いえ、嫌じゃないですから、撮ってください」
二人で密着し、またパチリ。
「ふふ」
「ふふっ」
なんだかまた二人の楽しい遊び方を見つけてしまった。写真もいいかも。




