●第二話 猫
お風呂でうっかり事件のあと、葵が僕を見る度に顔を赤くする。
「あぅ……!」
逃げ出したりはしないし、怒ってはいないと言ってくれたので、ひと安心だけど。
「二人ともいちいち気にしすぎだっての。ちょっと裸を見られたからって減るもんじゃないだろ」
と真夜は言うのだが、真夜の思考はどちらかというとマッチョ男子だからなぁ。
葵は真夜とは違い、繊細な子なのだ。
「ふぅ」
どうしたものかと僕はため息をつきながら部屋を出る。
お茶でも飲もうとリビングに向かうと、向こうから変わった声が聞こえてきた。
「にゃー、シロちゃんはかーいーでちゅねー、にゃんにゃんにゃん」
「ニー」
まさか、と思いつつ、入り口からそっと中をのぞくと、やはり葵が床にひっくり返った状態で白い猫――シロを可愛がっていた。ま、猫は可愛い。シロを可愛がってくれるのも、飼い主としては嬉しいことだ。
「にゃー」
「ニー」
ゴロゴロとリビングのカーペットの上で転がりまくる葵。もうどちらが猫かわからないほどだ。
何このカワイイ生き物!
ただ、これ――僕が見ていると気づかれると、葵はきっと恥ずかしいだろうな。そう思って、部屋に引き返すことにする。
「ニー」
「あっ、シロちゃん、どこ行くの。待って」
どうやらシロは僕を追いかけて廊下までやってきたようだ。おっと。
「ああっ! ゆ、悠真くん、いつからそこに?」
「いやぁ、つい、さっきだよ」
僕は気づかれまいとして笑ってごまかそうとしたが、みるみるゆでだこのように顔を赤くした葵にはバレてしまった様子。
「う、うう、恥ずかしいところをまた見られちゃいましたぁ~」
涙目で顔を隠す彼女。なんだろう、葵には悪いのだけれど、この恥ずかしがる姿を見られただけで僕はニマニマと幸せな気分になれてしまう。
「猫は可愛いよね」
「うう~!」
「まあ、僕も似たようなことをしてるから、気にしなくて良いよ。勝手に盗み見たみたいでごめん」
「ええ? それなら、うーん。ホントに?」
小首を傾げて上目遣いに聞いてくる葵。
「もちろん。君に嘘はつかないよ」
「じゃあ、いいかな」
「うん」
「ニー」
なんだかシロが楽しそうに僕と葵の足に交互に体をこすりつけてじゃれついてくる。
「次は絶対、自分の部屋でシロちゃんと遊びます。いいですよね?」
「まぁ、いいよ。いいよな? シロ」
「ニー」
いいようだ。




