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義理の兄妹になっても僕らは両想いなので、学園でも家でも隠れて付き合うことにしました。  作者: まさな
■第三章 紫陽花の季節

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●第一話 雨の悪戯

 六月になった。


 庭の紫陽花も満開になり、テレビのお天気キャスターが梅雨入りを教えてくれた。

 僕はこの季節はあまり好きではない。どんよりとした鉛色の重たい雲。ジメジメとした暗く寂しい空気。

 自然とため息が出る。


「悠真くん、どうかしましたか?」


 隣に座っていた葵が心配してくれたようだ。


「ああ、いや、なんでもないよ」


 僕は彼女に小声で微笑み返す。

 中間テストを再来週に控えた僕らは、放課後に図書室に集まって勉強しているのだった。


「かー、やってられっか!」


 僕の向かいに座っていた真夜がシャーペンをノートの上に投げ出す。


「真夜、声がデカい。図書室なんだから静かにしろよ」

「ああ、悪い。今日はこれくらいで帰るから」

「そんなのでテスト大丈夫なのか?」

「知るかよ。とにかくもう頭がふやけて何も入らねえし」

「そうか」


 葵が真夜に勉強を教えてくれていたが、本人の集中力が持たないなら仕方ないか。


「じゃあな」

「悠真くん、真夜さんは大丈夫でしょうか……?」

「んー、まあ何とかなるよ。明日もあるし、また誘ってみよう」

「そうですね」


 どちらかというと真夜のためというより好きな子と一緒に勉強会をするのが楽しい。


「悠真くんは何か、わからないところはありますか?」

「そうだな。ここが今、詰まってたんだ」

「時制の一致ですね。過去完了形だから、訳すと『マコトが浮気したのを彼女は知っていた』」

「ああ、なるほど。カンニングかと思ったら、チートは浮気の意味か」

「そうね。……悠真くんは大丈夫ですか?」

「うん? 英語のテストのこと?」

「ううん、私との関係のこと」

「えっ! 浮気のこと? ああ、そんなことしてないよ。する相手もいないし」

「だといいですけど……」


 どうも信頼が今ひとつのようだが、そこはこれから信頼関係を深めていけばいいだろう。まだ僕らの恋の時間は始まったばかりなのだから。

 下校時間になり、雨が降っていたので二人で傘を差して歩く。さすがに相合い傘は目立ってしまうのでそれはやらない。一度はやってみたいけれど。


「あっ」

「きゃっ」


 歩道を歩いていると、大型トラックがスピードを緩めずに僕らを追い抜き、盛大に水しぶきが飛んできた。


「うぇ、参ったな。大丈夫か? 葵」

「ええ、大丈夫です。でも、制服が思い切り濡れちゃった……とほほ」

「早く帰って着替えよう」

「はい」


 肌にべっとりと張り付いたシャツが冷たくて不快だ。


「「ふう、ただいま」」


 玄関で靴を脱ぎ、濡れた靴下も脱ぎ捨てる。


「ニー」

「こら、シロ、濡れるから今は寄ってくるなって」


 じゃれついてくるシロを手でどける。


「ふふ。悠真くんはそこで待っててください。私が先にタオルを持ってくるから」

「ああ、ごめん」


 葵が風呂場からバスタオルを持ってきてくれたので、ひとまず体を拭く。彼女は丁寧に長い黒髪をバスタオルで挟みながら水気を吸わせているが……。よく見ると、上のブラウスが彼女の体に張り付き、下のブラがうっすらと見えてしまっている。


「うっ」

「? どうかしましたか? 悠真くん。私のブラウスに何か、ああっ!」


 しまった、見ていることに気付かれてしまった。最悪だ。葵は顔を赤らめ、さっとバスタオルで自分の胸を隠した。


「うう……」

「ご、ごめん、とにかく、先に風呂場で服を脱いで、ついでにシャワーを浴びてくるといいよ。その間、僕は部屋で待ってるから、終わったら呼んで」

「でも……、悠真くんが先に使って」

「いや、僕のほうは髪の毛もそれほどじゃないし、いいから、風邪を引くよ」

「でも、くしゅんっ! ああ、ええ、やっぱり先に使わせてもらいます。ごめんなさい」

「いいよ」


 僕は頭を振って、葵の透けたブラウス姿を脳裏から振り払う努力をしつつ、部屋に引っ込んだ。

 部屋で髪を拭いていると、真夜がやってきた。


「悠真~、おお、帰ってたか。対戦ゲーム、やろうぜ!」

「あとでな。来週試験だっていうのに、遊んでていいのか? 真夜」

「うっせーな、今日はちゃんと放課後にやっただろ?」

「まぁな」

「ってか、濡れてるなら、さっさとシャワーを浴びてこいよ。葵もさっき終わったって言ってたぞ」

「ああ、そうなのか」


 思ったより早いな。彼女の髪は長いから、洗うのに時間がかかりそうだと思ったけれど、僕を気遣ってさっと済ませてしまったのかも。


 脱衣場に入り、服を脱ぎ、洗濯機に放り込む。さて、シャワーを浴びるかと思って、浴室のドアを開けようとしたが、シャワーを止める音が聞こえたし、人の気配がある。むむ、これはまだ葵が中にいるようだ。


「真夜さん? ちょっとシャンプーが切れてるので、新しいのを渡してくれ――」


 まずい、と思ったときには葵がドアを開けてしまっていた。

 そこには抜けるように白い肌の天使がいて、あられも無い姿をさらしている。

 お互いがお互いの裸を見て、しばし硬直してしまう。

 最初に悲鳴を上げたのは葵だった。


「ひ……きゃあ!」

「ご、ごめん!」


 僕は慌てて浴室のドアを閉め、脱衣場からも出る。やれやれ……。


「おい、今の悲鳴はどうしたん――うおっ、悠真、なんで裸で出てくるんだよ!」


 真夜がやってきてしまった。

 くっそ、なんだこれ、孔明の罠か? 前門の虎後門の狼みたいな状況だな!

 次の行動をどうするか冷静に考えた僕は、ひとまず脱衣場に入って、服を着る。そして。


「真夜、お前、さっき葵がシャワー使い終わったって言ってなかったか?」

「あー、悪い、そうじゃなくて、さっき、葵に一回電話したんだよ。放課後の勉強は終わったからって聞いたからさ」


 つまり、真夜が終わったと言っていたのは勉強会のことでシャワーの話ではなかったのだ。

 なんだ……。

 真夜が電話をかけたときは葵がもう脱衣場にいたんだろうな。


「悠真くんは、二階の部屋へ行ってください! 終わったらあとでちゃんと呼びに行きますから」


 葵が明らかに怒りを秘めた声で言う。


「お、おう、悪かったよ」

「葵、アタシの言い方が悪かったんだ。誤解だから、あんまり怒らないでやって――」

「いいから、悠真くんはさっさと服を着て自分の部屋に戻って! 真夜さんも!」

「「は、はい」」


 ヤバイ、なんだか滅茶苦茶に怒ってる。服を着替えて脱衣場から出た僕は、気まずそうな顔をしている真夜と肩をすくめ合い、部屋に戻った。

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