●第十二話 僕らの時間
ゴールデンウイークに入り、学校が連休になったのはいいが、僕には切実な悩みがあった。休みに葵をどこに誘うか、彼氏として次のデートを考えねばならないのだ。
「でも、映画はミスるとキツいしなぁ……ショッピングも行きたいわけじゃないし。何かもっとこう……」
父さんから聞き出したアドバイスをもとに、もっと、二人で楽しめそうな場所。できれば静かで落ち着ける場所がいい。かといって、あんまりムードたっぷりでキスを狙っていると思われそうな場所は、葵も警戒したり心配したりしてしまうかもしれないから避けておきたい。となると……。
「あそこしかないな」
僕のような行動範囲が狭い陰キャオタクでも生息可能な数少ないスポット。
葵にメールして、OKもすぐにもらえた。
翌日、朝食のあと、しばらく休憩してから、二人で出かける。
「おっ、どこか行くのか、お前ら」
ヒマそうな真夜に見つかってしまったが、僕も葵も全然焦らない。
「ええ、図書館に行こうと思って」
「一緒に行くか?」
それどころか僕はあえて真夜を誘ってみる。
「うえ、なんで休みの日にそんな所、行きたがるんだよ。行かねー」
しかめっ面をした真夜は誘われるのも嫌がって、すぐに自分の部屋に戻っていった。
「ふふっ」
「ははっ」
上手くいったとばかりに笑顔を交わし、僕らは堂々と外に出た。
「悠真くんは図書館によく行くの?」
静かな並木通りを歩きながら、二人でお喋りする。
「いや、そんなにでもないな。電子書籍で済ませることもあるから。でも、専門書って図書館じゃないと、置いてないんだよね」
「ああ、電子書籍は全部じゃないですよね」
全部電子書籍にしてくれれば便利なのに、と少し前までの僕はそう思っていたけれど、こうして葵と一緒に出かける場所が無くなっても困るので、やはり紙の本もあって欲しい。
それに、たくさんの本に囲まれていると、まだまだ無限に自分の知らない世界があるのだと実感できて、ちょっとワクワクする。
ガラス張りの近代的な図書館が見えてきた。日光が本に当たるとまずいのでは、と一瞬考えたが、UVカットガラスなら本の劣化も防げるし、明るいほうが照明代も少なくてエコなのだろう。
「じゃ、あそこが空いてるから、あそこで読もうか」
「ええ」
僕らは読む机を決めてしまうと、それぞれの読みたい本棚へと分かれて向かう。僕はプログラミング関係の本を。何冊か持って机に戻ると、葵もハードカバーや文庫本を持って戻ってきた。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』か。そしてもう一冊はタイトルが見えない。彼女は海外文芸が好みのようだ。まずいな、僕はその手の本をまったく読んだことがない。また今度、借りてみようか。
僕らは微笑み合うと、そのまま席に向かい合って座り、自分の本に集中する。しばらくは葵のことが気になって本の内容はさっぱり頭に入っては来なかったけれど、何度か読み返しているうちに集中できた。
時折、ふと気付いて葵のほうを見る。彼女は真剣な眼差しで手元の本のページを見つめていた。長いまつげと、完璧に整った理知的な顔。ページをめくる彼女をずっと見つめたくなってしまう。だが、彼女もこちらの視線に気付いてふふっと笑ってくれる。いつまでも見続けていては彼女の読書の邪魔になってしまうので、僕は視線を再び本に戻して読み始める。
葵を眺めるのもいいけれど、こうしてお互いが読書でつながっている感じもいいな。
昼食は僕が作ったサンドイッチをベンチで食べた。
「め、めかぶの具だなんて……!」
と、葵は手をプルプルさせて震撼していたけれど、ま、ネットで見つけたレシピだから、僕のアイディアというわけでもないのだ。マヨネーズと合わせてほんのりわさびを利かせれば独特の食感で一風変わった料理になる。あとは定番の卵サンドでお腹を満たしておく。
「間もなく閉館時間となります」
アナウンスが入って気付いたが、午後はあっという間に過ぎてしまっていた。
「じゃ、そろそろ帰ろうか」
「ええ。でも、こんなので良かったのでしょうか?」
「僕は良かったよ。変に緊張せずに君と一緒に過ごせたから」
「う、うん……」
葵が照れてうつむく。いとこの陽奈ちゃんあたりに知られたら「そんな所でデートなんてバッカじゃないの!?」と言われそうだが、いいのだ。
僕らが良いなら、それが僕らの世界のスタンダードなのだから。




