●第七話 学校での葵と真夜
そうして僕と鈴崎葵は一日にして家族になってしまった。それぞれの父親と母親の再婚という形で。
改めての顔合わせが終わった翌朝、僕ら家族四人は同じテーブルで朝食を取った。
この家で朝から本格的な味噌汁や焼き魚が食卓に並ぶのは久しぶりだ。
魚って、焼いた後の片付けが凄く面倒だから、スーパーやコンビニパックのお惣菜でよく済ませちゃうんだよな。今まではトーストとベーコンエッグの組み合わせが多かったし。
「さ、召し上がれ。お代わりも遠慮無く言ってね」
エプロン姿の真理亜さんが優しく笑みを浮かべながら言う。エプロンの下はビジネススーツなのでこれからすぐ出勤なのだろう。葵も制服なので他の鈴崎家の人はきちっとしているようだ。一方、うちの父さんと僕は寝間着代わりのトレーナー姿。さすがにご飯時に制服だと汚さないか心配だし、まぁこれでいいか。
「おお、これはうまそうだ」
服装など全然気にしていない様子の父さんが、両手を大きく開いて大袈裟に言う。ま、それだけの期待感が持てる見栄えの料理だな。皿の下に布を敷くとか今まで僕らはやっていなかったし。
「ふふ、悠真くんの口に合うといいのだけれど」
真理亜さんも葵と似たようなことを言うけれども、その顔には自信があふれている。
「いえ、大丈夫だと思いますよ。いただきます」
僕は焼いた鮭に箸を伸ばす。と、そこであることに気づいた。
「あれ? 皮まで綺麗に焼けてるけど、これどうやったんですか?」
フライパンで焼こうとすると、どうしても丸みがある横の皮の部分は焼き面にはムラが出てしまうはずなのに。
「ああ、グリルを使ったのよ。へえ、悠真くんもちゃんと料理をやってるのね」
「いえ、ちゃんとじゃないですけど。なるほど、グリルかぁ……」
料理は奥が深いと改めて思い知る。ちらりと向かいの葵に目をやると、彼女もこちらを見ていて目が合った。思わずニコリと微笑み合う。
「うん、うまいな」
「うん」
朝食は、とてもおいしかった。真理亜さんは料理が得意なようだ。これはありがたい。
しかも目の前には葵がいる。彼女と視線が合い、お互いに照れくさくて何度も微笑んでしまう。
「なんだ悠真、何をニヤついてるんだ?」
「いや、真理亜さんの料理がおいしいから、これは毎日楽しみだなって」
「なんだ、そんなことか」
「あらぁ、嬉しいわね。口に合うかどうか心配だったもの」
「なぁに、オレの口に合うんだから、悠真も大丈夫だって言ったろ」
「そうね、ふふ」
父さんと味覚レベルが同じというのが何だかちょっと嫌だが、まあ、似たような物をいつも食ってるし、そんなものかな。
登校はさすがに兄妹で二人そろってとはいかず、それぞれ別々だ。僕と葵は昨日話し合ったとおり、お互いが付き合っていることは隠し通すつもりだから、一緒の登校はしない。でも、恋人が一緒に登校したら、どんな感じだろう?
きっと――
「よっ、悠真」
「ああ、おはよう、真夜」
弾んだ声をかけてきたのは見慣れた幼なじみだ。
「悠真、英語の課題ってやってきたか?」
真夜が髪をわしわしと乱暴に引っ掻きながら聞いてくる。普通にしていれば、さらりとしたショートの綺麗な髪なのになんだかもったいない気もする。
「まぁな。わからないところもあったけど、それ以外は」
「おお、じゃ、朝、教室で写させてくれ」
「いいけど真夜、お前そればっかりだな。中間テストの時、困るぞ」
「いーんだよ、その時になったら本気出して一夜漬けで何とかするから」
軽く言うが、徹夜で勉強するなんて、寝たらダメだというプレッシャーもあるだろう。大変そうだ。
「ま、好きにしてくれ」
「おう、好きにするぞ? ところで新しい母さんってどうだ?」
「ああ。優しそうだし、良い人かな」
「そっか。じゃあ良かったな!」
真夜はニカッと笑顔を見せて嬉しそうにする。だけど、僕にとっては葵と堂々と付き合えなくなってしまうので、素直には喜べない。さすがに僕と葵が付き合い始めたのは真夜も知らないだろうけど。
「料理は上手なのか?」
「ああ、上手だった」
「おおー、じゃ、アタシも今度飯を食いに行くぞ」
「なんでだよ」
「エー、いいだろ。気になるし」
「気になるのはわかるが、食べに来るほどじゃないだろ」
「なんでだよ、隣近所の味くらい知っておくべきだろ」
いや、その理屈はおかしい。
「言っておくが、真夜、せっかく父さんが良い人を捕まえてきたんだから、余計な邪魔はするなよ?」
僕は釘を刺しておく。
「ああ? 何だよ、心配してやってるのに。アタシだっておじさんの再婚が上手く行くほうがいいぞ。でも、良くない人なら、追い出してやる」
「お、おいおい。余計なお世話だ。良い人だぞ」
「そんなの一日や二日じゃわからないだろ」
「それは……とにかく、お前は来なくていいからな」
「なんだよ、それ。近所なんだし挨拶くらいするだろ。しないほうが感じ悪いぞ」
「むむ、いや、別に近所だからって……まぁいいか」
「挨拶はするからな」
挨拶くらいはいいとして、こっちは再婚が上手くいくよう、細心の注意を払っているだけだ。
「そんな顔しなくたって、大丈夫だぞ、悠真」
真夜が珍しく優しい声で言う。
「なんだよ、それ」
「別に。一馬おじさんが連れてきた人なんだしさ。ああでも、おじさんって一回失敗してたし、あんまり人を見る目はないよな」
「おい。うるさいぞ」
「はは、ごめんごめん、悪かったよ」
笑っている真夜だが、思いっきり不安になったじゃねーか。まったく。




