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義理の兄妹になっても僕らは両想いなので、学園でも家でも隠れて付き合うことにしました。  作者: まさな
■第一章 そして僕らは家族になっていた

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●第六話 昼休みとお弁当

 昼休みになった。

 先に鈴崎がお弁当を入れているであろう手提げ袋を持って席を立つ。彼女はちらりとこちらを見ただけで教室を出て行った。もちろん僕もそのアイコンタクトを逃さず受け取り、席を立つ。


「あ、悠真、朝の宿題のお礼に、なんか奢ってやるぞ。パン一個までだけどな」


 真夜がやってきた。


「いや、いい。僕はちょっと用事があるから」

「ええ? 何の用事だよ?」

「何でもいいだろ」

「何だそれ。怪しいぞ?」


 こういうときだけ、勘が良いから面倒だよな。真夜はそんなに気が付くほうじゃないが、これも腐れ縁で相手を知り尽くしているせいか。まったく。


「ちょっと先生に頼まれごとだ」

「ああ、なんだ。一人で頑張ってきてくれ」


 あっさりと手のひらをかえした真夜。そこは手伝ってやるぞ、くらい言えんのか。まぁいい。


「文芸部の部室は、確か、こっちだったな」


 渡り廊下を通って、文化部の部室が集中している東校舎へと向かう。

 生徒はちらほらといたがそれぞれの部室に向かう目的のようで、廊下で佇んで喋っている生徒はいない。これなら文芸部の部室に僕が入ったところで、気付かれる心配はなさそうだ。リノリウムの床に足音だけが静かに響く。しかし、居ても立ってもいられない僕は走り出したくなる気分を我慢しなければならなかった。


「ここだな」


 文芸部のプレートを見つけて、軽くノックして入る。

 ほのかな紙の匂いが僕を迎える。

 狭い部室は長机を二つ並べただけの簡素な物だった。壁際にはハードカバーの本や文庫本がずらりと詰め込まれた本棚が並んでおり、文芸部の制作物なのか、手作りの文集が入れられた棚もあった。窓際にかけられた白いカーテンは日の光で照らされて淡く光っており、僕はなんだか不思議な空間に誘われた気分になった。


「冬月くん、ここ、どうぞ」

「ありがとう」


 鈴崎の右隣に座り、ありがたく差し出されたお弁当の包みを開く。


「むむ、二段? 結構量があるね」

「そうですか? 高校生男子ならこれくらいかと思ったんですけど……食べきれなかったら、残してもらっていいですから」

「いやいや、せっかく鈴崎さんが作ってくれたんだし、頑張って全部食べるよ」

「ありがたいですけど、無理はしないでくださいね」

「うん」


 中身はサンドイッチが入れられた弁当箱と、おかずだけを入れた弁当箱の二段構えになっており、サンドイッチなら食べきるのは全然難しくない。


「それと、ホットコーヒーもありますから。ミルクを混ぜたものだけど、これも良かったらどうぞ」

「ありがとう」


 水筒から文芸部備え付けのティーカップに注いでもらい、サンドイッチを頬張りつつ、コーヒーも飲む。

 サンドイッチはしっかりとバターで下味が付けられ、キュウリにはわさびマヨネーズ、カツサンドにはほんのりマスタードと芸が細かい。


「ど、どうですか?」


 これだけの手間をかけた力作でありながら、自信なさげに心配そうな表情で聞いてくる鈴崎。その仕草がとても可愛い。

 口に入れたまま喋るのもどうかと思ったので、僕はビシッと親指を立てて彼女に感想を伝えた。

 それでほっとしたように胸をなで下ろす彼女。

 なるほど、これが男女の付き合いというものか。


 なんという圧倒的な破壊力。なんという素晴らしい幸福感。


 明智や真夜と一緒に弁当を食べたこともあるが、雰囲気は全然違う。

 二人だけしかいない空間で、照れくさそうに頬を赤くした彼女がこちらを見つめているという状況。

 部室の中は静かで、僕と鈴崎の食べる音だけが聞こえる。耳を澄ませていると、鈴崎の息づかいさえ聞こえてきそうな距離。


 とにかくヤバイ。

 何がヤバイって、これが明日からも続くだろうということ。

 僕らはまだ付き合い始めたばかりだった。


 これから二人で何ができるのだろう?

 どこまで二人の距離が縮まるのだろう?


 それを考えるだけで、落ち着かなくなり、胸が締め付けられるようだ。だが、告白前のあのやるせない気持ちとは違い、相手に受け入れられているという安心感があり、心の奥が温かい。

 僕は今までこんな気持ちになったことは一度もなかった。

 それが……ほんの少しだけ怖い。




 鈴崎が作ってくれた二段弁当を完食し、心もお腹も大満足だ。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした。冬月くんの口に合っていればいいけど」

「いやいや大丈夫、どれも本当においしかったから」


 鈴崎はちょっと心配性だ。


「だといいんですが……あ、食べたい物があれば、リクエストを言ってくださいね。今度、私が作ってきますから」

「ありがとう。今度はおにぎりを食べてみたいかな」


 鈴崎が握ってくれたおにぎりがどんな味か、やはり彼氏なら食ってみたいもの。


「うん、わかった」

「ああ、でも手間がかかるようだったらサンドイッチでもいいよ」

「ううん、そんなに手間は変わらないと思うから。大丈夫」


 ニッコリと笑ってうなずいた鈴崎は今まで僕が知らない表情を見せてくれた。この子、こんな顔もするんだな。もっと他の顔もあるのだろうか? それを知りたくなる。もっと一緒にいたい。


「あ、鈴崎さん、今日の放課後、デートなんてどうかな?」


 言ってから、昨日デートしたばかりなのに早すぎるだろ! と冷静な僕の理性が叱ってくるが、一緒に過ごしたいと思ってしまったからには、聞くくらいいだろう。


「あ……ご、ごめんなさい、今日はちょっとダメなんです」


 困惑した顔で鈴崎が謝ってくる。


「そう。いや、用事があるなら、別にいいんだよ。気にしないで」

「本当にごめんなさい。たぶん、明日なら大丈夫だと思いますから」

「そう。じゃあ、明日だね」

「ええ。実は今日、私の母が再婚するので、相手の人と家族で顔合わせがあるんです」

「ああ、そうだったんだ……。それは優先しないとね」


 鈴崎の家族のことは全然知らなかった。そうか、再婚か。

苦労してるようにはちっとも見えなかったけれど、きっと彼女は家で家事も手伝ういい子なのだろう。そうだな、僕も今日は帰ったら、掃除くらいはしておくか。


 だけど、帰宅した僕は人の話をきちんと聞くことの大切さを嫌と言うほど知ることになるのだった。

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