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第55話 大好きだから、決意する


「攻め入るって……何考えてんの!?」

 クララさんがバンッと机を叩いて声をあげる。


「この1ヶ月、俺たちはベジタル王国に潜入していたんだけれど……。まぁひどい有様だったよ。もともとあの国は野菜ばかりを口にし、貴族以外は肉や魚をほとんど食べることがない。他国との流通も最小限にしていたから、輸入食品も少ないしね。だからもともと痩せすぎな国民が多かったんだけど……。今は無理な税の取り立てでその食べ物すらも買えなかったり、流行病も相まって、骨と皮だけ、みたいな人も多く見られた」


「っ!!」

 

 国民が……そんな……。

 確かにベジタル王国はあまり肉や魚を流通させていない。

 いわく、自国の野菜こそが1番尊く優れているものであるというくだらない自負と習慣があるからだ。

 ただ、貴族や王族はそれでも週に二、三回はそれらを食べている。

 味を知っているから。

 私はそれがおかしいと何度も王やラズロフ王太子に進言してきたけれど、聞き入れてもらえなかった。


「今回潜入したのは、第二王子が幽閉されたと報告があったからでもある」

「カロン様……」

「今、父上がカロン殿の解放を要求しているが、困ったことに王太子は聞く耳を持たなくてね……。挙げ句の果てに『リゼリアは私のものだ。だからこちらへ返してもらおう』だと。……本当…………ふざけんな、だよね」


 クロードさんがぎらりと鋭く目を細める。

 お、怒ってる……!!

 でもラズロフ王太子、一体何を考えているのかしら……。

 アメリアは?

 あの子とはどうなっているの?


「どうも、かなりあなたに執着しているみたい。聖女だと分かったからなのか何なのか……。なんにせよ、俺としてはとてつもなく迷惑な話なんだけど……」

「随分子供じみた子ね。で、リゼを取り戻すために進軍しようと? アホらしい」


 私のせいで?

 攻め入ってくるとなったら、きっとフルティアからも騎士団が配置されて、戦いになったりするのよね?

 国民だって無事ではないだろうし、戦いに出る騎士たちはもっと──!!


「だんまりだったベジタル国王は、『聖女を返してこの国を助けてほしい』と懇願しているようだが……」

「助けを?」

「俺が見た感じ謎の病の原因はあの偏った食事による身体の脆弱ぜいじゃく化だろうね。そこから身体のあちこちを悪くして、結果病に……っていうところだろう。症状も様々みたいだし。きちんと栄養を取って、身体を作るのが1番だろうから、たくあんの力と流通の回復、食生活を変えることで治るとは思う。でも──」


 そこまで言ってクロードさんが言い淀む。

「でも?」

 クロードさんの纏う雰囲気がガラリと変わった。

 溢れ出るのは、普段の彼のイメージにはまずない殺気にも似た怒気。


「なんでリゼさんがベジタル王国を助けないといけないのかな? あんな仕打ちをしておいて。国民に非はないから気の毒だが、貴族はどう? 父母は? 双子の妹は? 王や王妃は? 理不尽に追放されたあなたを誰1人助けようとはしなかったじゃないか。このまま滅んでも仕方がないんじゃないかな?」


 表情の抜け落ちた顔で低くそう言ったクロードさんを、皆喉を鳴らして見守る。

 きっと私のために……怒ってくれてるのよね?

 本当……あったかい人。


 ラズロフ王太子を助ける──そんな気は一切ない。

 父母も、双子の妹であるアメリアも、貴族たちも、王も王妃も、正直どうなっても構わない。

 そこらへんの情は、今の私には皆無だ。

 だって私は、聞く耳すら持ってもらえなかったもの。

 無一文で、その時の服のままに追放された。

 反論しようにも聞き入れてはもらえなかった。

 誰も助けようとはしなかった。


 そんな人たちを、どうして私が助けなければならないんだろう?


 そんな気持ち、ないわけがない。


 でも……。


「……クロードさん」

「ん?」

「私、やっぱりクロードさんのこと好きです」


「はいぃっ!?!?」

 さっきまでの硬い表情が崩れて、ボンッと顔を爆発させ赤くするクロードさん。なんだか可愛い。


「私のために怒ってくれてありがとうございます。とっても嬉しいです」

 あなたが、あなたたちがとっても優しいから。

 とっても暖かくて、大好きだから。


 私は決意を胸に、クララさんに視線を移した。


「クララさん、私────ベジタル王国に行ってきます──」


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