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第103話 偽たくあん聖女17

 手渡されたものを見てすぐに、これがたくあんではないとわかった。


 瑞々しさのない萎びて硬くなったようなざらざらの感触。

 たくあんの比ではないほどに臭い匂い。

 重量感も全然違う。

 たくあんもずっしりするものの、こちらは無機質な重さで、どちらかというと鉛のようなものを持っている感覚に陥る。


 これは一体、何?

 ていうか、食べ物なの?


「じゃ、私はこれで」

「待て」

 受け取った袋を大事そうに抱えてそそくさと立ち去ろうとする女の腕を掴み上げ、ラズロフ様がその場に留める。


「な、何よ。まだ何かあるの?」

「やはり貴様、偽たくあん聖女だな」

 鋭い瞳が彼女を睨みあげると、彼女はビクリと身体を跳ね上がらせ「な、何を言ってるの? 私は聖女よ?」と取り繕うように笑みを浮かべてラズロフ様を見た。


 こんなに至近距離でも、兄さんがラズロフ様だとは気づけないのか。

 あんなにラズロフ様が好きだと言っていたのに。

 だって今のラズロフ様、平民の服と帽子をかぶっているだけで、後は普通のラズロフ様よ?

 私みたいにフードを目深にかぶっているわけでもなく素顔が出ている状態なのに。


 きっとそれはラズロフ様だって感じているだろう。

 自分を慕っていたはずの女の本性に、彼の心は大丈夫だろうかとこんな時なのに心配になる。


「残念だな。お前は偽物でしかない。観念しておけ」

「っ、なんで……理由はあるの!?」

 自分の腕を掴み上げたままのラズロフ様をキッと睨みつけて声をあげる女に、ラズロフ様は意地の悪い笑みを浮かべた。


「理由ならある。王太子時代の私室に置いてあった花瓶の色は、ド派手なピンクだ!! それはもうセンスのカケラもないな!! 何度も私室に入ったことのあるリゼリアならば、間違えるはずがない。それにあれは、リゼリアが作ったものだからな!!」


 センスのカケラもなくて悪かったわね!?


 ド派手なピンク色の花瓶。

 柄はいろんな色の花を描いたつもりが、色々溶けて滲んだので混ざり合ってよくわからない捩れた顔の跡のようにも見えるホラー作品。

 そう、確かにラズロフ様の部屋に置いてあったわ。

 アレは私が婚約してすぐぐらいの時に、ラズロフ様と行った避暑地での絵付け体験で作った花瓶で、彼が欲しいというから差し上げたものだ。


 いつも何かしら綺麗なお花が活けてあったから、てっきりあのホラー作品を気に入ったのだと思っていたけれど……センスのカケラもないと思ってたのね、この人。

 ならなぜ置いた。


「っ!! そ、そんなの、デタラメよ!! そんな品のない花瓶、あのラズロフ様が飾るわけないじゃない!! 大体平民のあなたなんかがラズロフ様の私室に入れるわけがないのに、何でわかるのよ!!」


 2人して私の心を抉りにかかるのやめてぇぇぇえ!!

 わかってる。

 美的センスがないのは私が1番よくわかってるから……!!

 リゼリアに100のダメージ。


「貴様、まだわからんか? 私が誰なのか」

「は? 誰って──っ!! まさか……ラズロフ……様?」

 じっとラズロフ様の顔を覗き込んでからようやく彼がそうだと気づいたようで、私によく似たその顔を引き攣らせたまま固まってしまった。


「そうだ。久しいな、アメリア。姉もいるぞ」

 そう言ってラズロフ様が隣の私のフードを取ると、アメリアは目を大きく見開いた。

「お姉……様……」


 久しぶりに呼ばれた姉という言葉に不思議な感覚が私を襲う。


「それはそうとラズロフ様、アメリアを部屋に入れたことなかったんですか?」

 浮気してたのに?

「入れるわけ無かろう。私が部屋に入れるのは婚約者のみだ」

 そこはちゃんとしてたのね。


「そうよ!! しかもラズロフ様、私が部屋に招いても一向に入ってくれなかったんだから!! キスだってその先だって全くしてくれないし!!」

「当たり前だ!! そういうのは結婚してからだな……」

「おかげで既成事実も作れないから婚約にも漕ぎ着けなかったし!!」

「既成事実を狙うな!!」


 ラズロフ様、その意外な真面目さで命拾いしたわね。

 まさかアメリアがそんな作戦を見出していたとは……。

 恐るべし、アメリア。


「とにかく、観念してベジタルへ帰って裁きを受けることだ」

「くっ……【植物育成】!!」


 アメリアがラズロフ様に捕らえられたままそう叫んだ瞬間、私たちの足元の雑草がぐんぐんと伸び始め、ラズロフ様と私の体を縛り上げた──!!


「っ!! これは──!!」

「ラズロフ様、すごいでしょう? 私のスキル。こうやって人を締め上げることも簡単にできちゃうんですよぉ?」


 ラズロフ様の手から解放されたアメリアがニタリと笑う。

 その笑みは聖女というよりも魔王。


「ちょうどいいわ。お姉さまのこと、私がたくさんいたぶってあげる。ラズロフ様は……利用価値も無くなっちゃったけど、お顔は好みだから、たくさん可愛がってから殺してあげますね」


 そう言って私に手のひらを向けた刹那──。


「そんなことしてもらっちゃ困るな」


 目の前を閃光が走って、私と、そしてラズロフ様の身体にまとわりついていた植物が真っ二つに裂かれ、私は瞬時に解放されることとなった。



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