表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

闇と雲-1

 ラーメンデートから、いやいやデートじゃないがとにかく三日がたった。

 そこですかさず、司令部からお呼び出しがかかった。

 研究所で何らかのトラブルがあった可能性については、おそらく俺とマキしか知らない。なので、あの後すぐにマキの了承を得て俺の方から直接詳細を伝えてある。

 その上での呼び出しだ。

「ちょっとした艦隊を編成中だ。帰ったばかりで悪いが『鬼怒九号』も出てもらう」

 と、宇宙艦隊司令の栗原元帥。

 慌ただしいことだな。べつに直接呼ばなくとも、命令とあらばしごとはするが。

「先行偵察にでも?」

「まあ、そう焦るな。今回はきっちりやらなぁイカンでな。実はな……」

 と、神妙な顔をした元帥の話をまとめると、こうだ。

 参謀本部長の泉大将と政府のお偉いさんが、俺が帰ってきた翌日にナブロクレの偉い人とやらのところに行って来たのだそうだ。行って来たというくらいだから、こっちから足を運んだわけだ。

 護衛には平均身長二・三メーターを誇るホンザイル星人を含む数名、さらに準エース級のテレパスを連れてだ。ある意味、少人数でもある。

 そんなゴージャズメンバーで乗り込んだというのに、返事と言えば、『接近中の“爆弾”を完全破壊するまで退かない。破壊の邪魔はさせない』の一点張りだった。この爆弾ってのは、森田電気の研究所のことなのだが、いくら説明しても危険物としかとらえてくれなかったわけだ。

 仮に危険な爆発物だとして、爆発されたからどう困るかという話は、ナブロクレ側からはない。なにをどう頑張っても、ブラックホールがぶっ飛ぶようなことはないってのに。

 と、いうわけで、まずは退散してきたわけだが、ここでひとつ希望がでてきた。

 ナブロクレが完全破壊を目指しているということは、まだ完全には破壊されていないということだと予測される。

「ということで、大規模な救出作戦を行う。それにあたり、これをだな」

 と、長老……泉大将はあえて紙に手書きした編成表を俺に見せた。

 こいつは裏帳簿だとばかりに、ちょいちょいと背後の司令部メインスクリーンを指差す。

 こっちもあっちも、艦隊編成の図だが、たしかに若干の違いがあるようだ。見たこともない大編成で、どこがどう違うのかよくわからん。

 と、言うわけにもいかないので、よく見てみる。

 天京管轄だけでも、旗艦「大和」に加えて戦艦「駿河」一号から七号、戦艦「常陸」三号と四号、「白根」型重巡が六十隻くらい、大型空母「雷鵬」六号から十六号。ああもうめんどくせえ、全部で三百くらいだ。同胞のケネディア共和国からも、空母中心に五十くらい出てきてる。

 よくも、短時間にこれだけの編成を考えたもんだ。

 もちろん、手書きのほうはひとつひとつ丁寧に書いちゃいないが、まあ概要はあってる。

 そして、我がKKはというと、スクリーンでは軽空母部隊の隅っこだが、裏帳簿では無人ガンシップ五隻だけを率いる別働隊になっていた。

「つまり、そういうことだ。一部の通信にマインドブースターを使うので、テレパスのアタリをつけておくように。ま、『鬼怒九号』には清水大尉が常駐してたな」

 つぐみちゃんか。艦のシステムとつなげばそこそこ遠くと思念波通信できたが、負担が大きいな。もう一人くらい、補欠がいたほうがいい。

 といってもまあ、あのガキ一択なのだが。そうなると、つぐみちゃんがむしろ補欠。

「というわけだ。出撃は三日後、ナブロクレとガチでやる」

「空振り、はないでしょうか」

「無い」

「なぜそうきっぱり。いや、なんとなく分かりましたよ。果たし状でも出しましたか」

「正解!」

 司令がにやりと親指を立てて見せる。

「三日後に救援部隊を派遣するので、邪魔するなとだけ伝えておいた」

「そういうことでしたら」

 普通に挑発だ。

「というわけで、出撃準備をしておいてくれたまえ」

 なにが「というわけ」だ。たった三日で補給と補修と回収をやれと。

 やれやれ、だ。


 つーわけで、俺は桑原宗助。二十二にして艦長。以下略。

 俺は寝る間も惜しいのに、艦長が本番で寝てたら困ると、途中で副長にふん捕まえられて寝床に放り込まれつつ、起きてる間はどたばたと補修と補給の指揮を執った。

 少し人手不足と言うことで、若手一人をオペレータ長として昇進させた。

 榎ふみという、メガネをかけた色白で髪の長い女性士官だ。

「ほー?」

 俺がその榎を見てたら、振り向いてふわっとした声で言った。で、普段から持ち歩いてるでかいタブレットの画面に「なんでしょう?」と表示されている。

 こんなかんじで無口、というよりもひたすらぼぉ~っとしてるタイプで、喋る代わりによく画面に文字を出す。いつ書いてるのかはよくわからんが。

 こんなメガネキノコだが、見た目はともかく仕事は良くやってくれて、おかげさまで大量に持ち帰ってきたデータの整理や結果報告がすんなり終わった。

 さらに、合間を見て、ちょっとしたマキの訓練をした。

 言うまでもなく、恐ろしく筋がいい。この歳でエース級テレパスだけはある。そもそも、今までろくな訓練を受けてないというのに、ここにいるらしいのだ。

 俺としても、教えるのはモノの使い方くらいで、あとは精神面の訓練、いや教育をしてやった程度だ。時間はなかったが、育てれば精神面でも相当タフになれそうだ。そもそも、テレパスなんて、気がしっかりしてないと参っちまうらしいからな。

 でだ。

 今回もまた、KKは重たい。主に重水燃料と兵器でだ。

 KKは半分空母だから、艦載機を載せ替えて戦闘機を増やしたわけだ。

 そのうえ、浮遊砲台まで積まされた。

 浮遊砲台ってのはアレだ、大砲に最低限のエンジンと装甲版を付けただけのハシケだ。ワープができないから、戦場まで大型艦に積んでいくしかない。

 大砲は旗艦「大和」と同出力だが十発も撃ったら、焼き切れておしまい。装甲は小天体を削ればいくらでも手に入る鉄を、正面だけやたら分厚く張り付けただけ。要は、安物で使い捨て。もちろん無人で、積んでいった母艦から遠隔操作だ。そんなもんでも、数をもっていければかなりの戦力になる。威力だけはあるから。

 このKKには、そのハリボテを五基積んでいくことになってる。どれだけ役に立つやら。

 他にも、KKの半分ほどもある大型無人戦闘艇を五隻連れて行くことになる。こっちは積んでいくわけじゃなくて、リモートで同行させる仕組みだ。KKにとって死角になる後方からの敵対策にはありがたいところだ。こいつがなかなか優秀らしく、ワープを含めてこのKKに追従するだけのエンジンと、そこそこの防御力が備わっていた。

 こっちは砲台と違って作るのにコストも時間もかかるので、「壊すな」と言われているが、これから戦いに行くのに無理を言わないでほしい。泉大将には、出来たらそうする、とだけ答えておいた。

 あと、重力場制御のプログラム書き換えも終わっている。おそらく、星間ガスの中を飛び回る分には銀河最速になったはずだ。団体戦じゃ使い道がないが、戦場が戦場だけにつかえそうでもある。

 さてだ。

 まもなく出撃時刻。本隊と合流だ。

 KKは空母部隊に配置される。A字型をした全体の艦列の内側で、五隻の無人戦闘艇を率いた小さなA字隊列の先に位置していた。ようは、命令があったら突っ込めということさ。空母部隊じゃ仕方ない。

 周りの空母をみると、どれも浮遊砲台を担いでいた。全部ぶっ放したらたいした威力だろうな。

 しかし――

 人類が宇宙進出を始めてはや数百年。いや、たった数百年だ。

 それで、ずっと昔から宇宙を飛び回ってた連中と事を構えようというんだ、たいしたもんだよ。ワープできる艦だけで大小三百、あっちで浮遊砲台や艦載機を出したら、普通に千はこえるわけだ。

 まったく、本気モードにもほどがあるじゃないか。

 敵とは、実質ナブロクレだ。そのナブロクレ相手に、あえて「救援隊を出すから邪魔をするな」と伝えてある。やれるもんならやってみろ、と連中は解釈するだろうし、そのつもりだ。

 おそらく、今後のためにも一泡吹かせるつもりなのだろう。

『さて諸君、用意はいいかね』

 ふわり。ブリッジのスクリーンが展開され、期間「大和」のブリッジに立つ栗原艦隊司令の姿が映し出された。ああ、こっちはいつでもいいさ。すぐ隣で、やたら真剣な目をしたマキがうなずいている。そんなに緊張するなと。

 ――余計なお世話。

 へいへい。

『先行偵察隊がブラックホール重力圏外縁部の、比較的重力が安定している空域に集結しているという情報を突き止めた。細かい指示はワープ後に出す。では全艦、旗艦について来い!』

 栗原司令がスクリーンから消え、旗艦「大和」のエネルギー反応が急上昇していく。あわせてKKのエンジンもそこそこ出力を上げる。なぜ、そこそこかというとだ……

 旗艦との同期完了。誤差一千万分の一秒以内。艦隊ワープまでおよそ一分。

 手元スクリーンに表示される。俺はコンソールからワープ許可を出し、待機した。

 十秒前……さん、にい

 ゆらり。「大和」ワープ伴う重力衝撃波で空間が歪み、星空が鈍い虹色を帯びる。

 刹那……複素空間にダイブ。星空が消え、視界がカオスに沈んだ。先頭艦の衝撃波を利用した波乗りエコワープのため、配下の艦は出力を抑えられるのだ。

 

 でだ。

 気合を入れてワープに入ったものの、一瞬で目的に着くわけじゃない。

 その間に、クルーたちを戦闘準備を命じる。現地に着いたら即座におっぱじまるの可能性があるのだ。

 ブリッジでは一番高いところに俺の席、すぐ下が副長の松田。右の射撃官制席にマキが座っている。

 そして一段下がったところに、各種機器の統合オペレータをするぼーっとした榎中尉、機関長でヒゲ面の椎名が並んでいる。

 このへんまでが、ブリッジ主要スタッフだ。

 メンテが行き届いていれば、このメンツだけで船は動くように作られてる。

 極限までチューニングされたデジタル式電子計算機によるシステムが、おおいに人間の手助けをしてくれるからだ。

 何百年か前、宇宙に出たばかりの地球人に銀河連邦が寄ってきたのは、この電算システムのおかげ、いやこれ目当てかもしれない。ナブロクレの転送機みたいに。

 だがまあ、現実はまるまる機械任せにはいかないわけで、人間の仕事は沢山ある。

 それを受け持つ彼らクルーの、艦載システムへのアクセス権は、それぞれ制限がある。仕事が分担されているわけだから当然だ。

 そう、そのはずなのだが、一名無視してきた。

「こらマキ。管理者権限でログインするなよ」

 そもそも、なぜログインできた。生体と脳波認証がかかるというのに。

「エース級テレパスには、司令部級のアクセス権限が与えられてますがなにか?」

 ああ、そうだった。こいつらときたら、規制なんて何しても無駄というしょーもない理由で最高権限が与えられてるんだった。もっとも、何が危険で安全かというのもすぐさまわかってしまうので、まず大事にはいたらない。が、こいつはガキだ。

「少佐扱いだもんね」

「わかってるが、余計なことするなよ」

 艦長は俺だ。

 マキが「はーい」と素直に返事をし、端末から延びたケーブルをうなじのコネクタに挿した。マインドブースターという、思念波と電磁気を変換するインターフェースで、テレパスならシステムに手を使わずにアクセスできる便利なしろものだ。もちろん、俺にはほとんど使えねえ。

 そんなことを話してるうちに、ブリッジ以外でも配置が進んでいく。艦載機の格納庫ではつぐみちゃんが出撃準備をしているはずだ。彼女もまたささやかながらテレパスで、マキの席に座らせておきたいのだが、飛行隊長をブリッジに足止めすることもまたできないことだ。

 さらに、砲術やら機関部門からも配置の進行状況の報告が入ってくる。

 黙って、スクリーンに情報を映す形でやるのが榎流。非常に分かりやすいが、時々「ほー」とか「はふ」とか気の抜けるような声を出すのが玉に傷だ。

 ま、めちゃくちゃ分かりやすいから、滞りなく進んでるけどさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ