第四十八話 女たちの酒宴 2
風呂から上がり、久間木に遅くなったことを詫びた。
「いえ、いいんですよ。
あの後、かつ子も寿栄子も疲れてしまったのか、風呂に入らずに寝ると布団に潜り込んでしまいましたよ。
敬蔵と私は酒を呑んでいたので、今ぐらいで丁度いいです。
それよりも体が冷えてしまいますから、早苗さん、早くお帰りなさいな。」
「あと、豊子さんがお酒を頂いたそうで。」
運んできた一升瓶二本を早苗は言ったつもりだった。
しかし、久間木は違うことを言った。
「ああ、豊子さん大丈夫でしたか。立て続けに四合ほど呑んでいかれたので、酒を運んで転んでいないか気にしていたんですよ。」
早苗は目を大きくした。
「もうこちらで呑んでいたんですか?」
「ええ、くくっと水でも飲むように。いい呑みっぷりでしたね。」
久間木は笑っているが、早苗は気が気でなかった。
先ほど枕元にあった一升瓶は少し減っていただけだった。早苗が珠代の風呂を焚きに行く間に、湯呑みを二杯くらいかと思っていたが、あれは二本目だったのか。
早苗は久間木への挨拶もそこそこに、家へと帰った。
雪は熄んでいて、足元もぬかるんではいなかった。
玄関の引き戸を開けると、豊子の笑い声。
早苗は豊子が二本目も開けているのかもしれないと頭が痛くなった。
土間の方から障子を開けると、相変わらず正座で呑む豊子。
縁側に近い布団に潜り込んで笑う珠代。
寝そべるその手には酒の入ったコップ。
早苗は頭を抱えた。
「あら、早苗さん。どうかなさったの?」
珠代がほんのりと頬を染めて、片肘をついたまま早苗に言う。
早苗はそれに構わず、豊子の枕元にある酒瓶を取るために布団に立つ。
手に持てば、酒瓶は未開封。
「豊子さん、このお酒は?」
「それは珠代さんがくれました!」
「炭と一緒にお酒も三本ほど、届けてもらったのよ。」
寝そべる珠代を跨いで、縁側の障子を開けると、そこには空と未開封の瓶がそれぞれ二本ずつ。
「一体どれだけ呑むつもりなんですか!」
振り返りざま、早苗が言った。
「とりあえず三本までなら、アタシは大丈夫です!」
「一杯か二杯くらいだから、大丈夫よ。早苗さん。」
「いえ、呑める量の話ではなくて。
………いえ、もういいです。」
早苗はふるふると、かぶりを振るとさっさと縁側から一番遠い、押し入れの前にある布団の中に入った。
ほぐした髪を手櫛で整えて、枕にのせる。
目を閉じようとすると、隣から豊子がゆさゆさと肩を揺らす。
「早苗さん、もう少しお話ししましょうよ!」
「いえ、お二人でどうぞ。」
「呑まなくてもいいですからぁ!」
耳元がうるさくて寝られやしない。
早苗は諦めて、起き上がった。




