第四十四話 火の守り番 6
早苗は豊子を勝手に動かないように引き止めてから、炬燵の火の始末や部屋の片付けをした。
六畳一間に布団が三つ。
茶箪笥の場所などを案配して、なんとか布団を敷き終わった。
時計を見ると、珠代が風呂に行ってから三十分が過ぎていた。
「もしかすると、温くて出にくいのかもしれませんよ。」
豊子が真ん中の布団で、正座をして言った。
「かつ子ちゃん、映画館に居るって連絡が入ったのが早かったみたいで。久間木さんがアタシたちが冷えて戻ってくるだろうって、すぐにお風呂を炊いて待っていたみたいです。
まさかアタシたちが橋の向こうまで行ってたとは思わなかったみたいで、久間木さん、驚いてましたよ。」
「そう。久間木さんが。」
「あ、お風呂場を見てきますか?」
「いえ、豊子さんは湯冷めしてはいけないから。布団に入って下さい。
わたしが行って見てきますから。」
早苗が豊子に言って、土間に向かうと、
「あの、湯呑みを貸して貰えませんか?」
と豊子が言った。
早苗はゆっくり豊子を振り返ると、
「呑むのは、ほどほどにして下さいね。稲川さんに、豊子さんは酒乱だって、言いつけますからね。」
と言った。
豊子は、「えへへ」と笑うだけだった。
早苗は外に出ると、寒さで僅かに肩を震わせた。
三人も人が居ると、いつもより家の中があたたかい。
やけに静かだ。
雪が降るのかもしれない。
早苗は風呂の方へと足を進めた。
久間木の家の風呂場は、母屋とは別になっている。
火事を気にしたのもあるが、手押しポンプで直接水を溜めたいために、この場所になったとも聞いていた。
早苗は建物入り口の引き戸を開けると、三和土の奥へ向かった。
そして、一段窪んでつくられた所にある風呂の焚き口を見た。
熾火も何も無かった。
引き戸の音が聞こえたのか。
「早苗さん?」
風呂場の中から珠代の声。
早苗は焚き口の横にある小窓を開けると、声を掛けた。
湯気がこぼれ出る。
「珠代さん、お湯が温いなら、今から焚きますよ。」
「ええ、ちょっと冷えてきてしまって。お願いしますわ。」
早苗が小窓を閉めようとすると、風呂の湯の中から珠代が言った。
「このまま、早苗さんとお話しさせてくださらない?」




