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第四十三話 火の守り番 5

 炬燵に角盆を敷き詰めると、その上に料理が並んだ。


 それでもまだまだ珠代の料理は余った。


「残りは明日の朝に食べましょう。冬だもの。そんなにすぐには傷まないわ。」


 珠代はころころと笑いながら、箸をすすめた。


 里芋とさつま揚げの煮物。

 鶏肉と牛蒡を甘辛く炒めたもの。

 昆布だしのよく効いた大根の入った煮染め。

 いつの間に作ったのかよく味の染みた白菜の漬け物。

 味噌汁はけんちん汁のようで、細かく切った根菜の味が豆腐によく染み込んでいた。


 他にもまだあるようだ。


 早苗は珠代にコートを返す時に鞄を見たが、殆ど空になったのかぺしゃんこになっていた。


 早苗が思う以上に、珠代は菓子と食材を持ち込んでいたようだ。


 かつ子を探し回った時と違う疲れを早苗は感じた。


 それでも体は正直だった。


 炬燵の温もりと、かつ子の眠る姿を見てすっかり気が緩んだ早苗は、ぱくぱくと食べる珠代に釣られて箸を伸ばした。


 豊子は料理を並べ終えるなり、先に食べ始めている。


 そしていつもの如く、珠代の料理を褒め続けている。


「すごい!珠代さん、こんなに作れるなんて!それにどれも美味しい!

 鶏肉と牛蒡は、胡麻油で炒めたんですね!すっごく香りがいいです!」


「あら、豊子さんも作れますわよ。食べて味を覚えて下さいな。」


 珠代は目を細めると、ふふふと笑った。






 豊子はひとしきり食べ尽くすと、


「このままだと寝ちゃいそうなんで、お風呂いただいて来ますね!」


 流しに食器を置くなり、着替えを持って出て行った。


 久間木たちはまだ落ち着かないのか、かつ子が眠ってしまっているからか。

 遅い時間に入るから早苗たちが終わったら声を掛けるようにと、さっき寿栄子から言われていた。


 風呂はもう沸いているらしい。


 久間木たちの早苗たちへの心ばかりの労いなのだろう。


 早苗は、先に珠代を風呂に入れて、自分があがったら久間木の家へ声を掛けに行こうと決め、流しで食器を洗い始めた。


 品数の多い分だけ、洗う食器も多い。


 やはり珠代は信用出来ないと思った。


 大人しく座っていればいいものを。


 早苗は袖を帯に挟むと、食器を洗い始めた。


 すると、隣に珠代がやって来て、


「洗ったもの、布巾で拭かせてくださいな。」


と言って、すすいだ食器を拭き始めた。


 その布巾も持ってきたらしい。早苗の知らない布巾だった。


 早苗はげんなりとしながら、黙って食器を洗い続けた。


 冬の井戸水はあたたかい。


 洗い桶に沈めた食器に井戸水をかけ流した。


 早苗が濡れた手で食器を置く。


 それを珠代が取り、しっかりと拭く。


 小鉢を重ねた珠代が言った。


「しばらく、こちらへは来られなくなりました。

 もしかすると、ずっとお会い出来ないかもしれないわ。」


 小さな、それでいて平坦な声だった。


 早苗は、洗い桶から食器を出しながら、


「そう。」


とだけ答えた。








 食器をすべて棚に片付けた頃、豊子が戻ってきた。


 湯上がりの豊子は上機嫌で水を飲むと、


「早苗さん、お布団、隣に寝ていいですか?」


と言った。


 早苗は少し眉間に皺を寄せると、豊子に顔を寄せた。


 お酒の匂い。


「どこで、いつの間に飲んで来たんですか!」


「ええー?お風呂上がってから、久間木さんに頂きました!ほら!お酒も!あれ?」


 豊子はキョロキョロと土間を見回すと、玄関へ戻った。


 玄関の軒下からは一升瓶が二本。


「玄関で戸を開ける時に置いたのを忘れてました!

 はい!呑みましょう。」


 豊子は一升瓶を上がり框に置くと、炬燵を稔の仕事部屋の方へ押し込み、勝手に布団を敷き始めた。


 早苗が慌てて止めに行くと、その隙に珠代が風呂へと行ってしまった。









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