第四十二話 火の守り番 4
久間木宅の玄関の引き戸を開ける。
中からは暖かい空気。
溢れでる暖気を身に受けながら、早苗と豊子が中に入ると、引き戸の音を聞きつけた寿栄子がやって来た。
喜色が浮かんでいる。
「藤村さん!かつ子、見つかりましたよ!」
早苗と豊子は頬と耳を赤くしながら、聞いた。
「え、本当ですか?」
「どこに居たんですか?」
寿栄子は二人に三和土ではなく、座敷へあがるように勧めた。
早苗と豊子が靴を脱いで、座敷にあがると首まで炬燵に潜り込んだまま眠るかつ子の姿があった。
早苗は、ほう、と息を吐いた。
頬を真っ赤にしてぐっすりと眠るかつ子。
その横に膝をつくと、早苗はゆっくりとかつ子の頭を撫でた。
少し高い体温に触れる。
柔らかい子どもの髪。
何度も触れて、早苗はようやく手を離した。
「よかった。」
早苗の言葉に、かつ子が返事をするような大きな息を吐いた。
かつ子を寝かせたまま、同じ炬燵に早苗と豊子も座った。
寿栄子がお茶を出す。
早苗と豊子は、湯呑みを両手で抱き込むと、しばらくじっとかつ子を見ていた。
少し熱めのまま、茶を口にする。
早苗は口をきくのも億劫な気持ちになった。
それでも聞いておかなければならないと思い、口を開いた。
「それで、かつ子ちゃんはどこに居たんですか?」
寿栄子は何度目かの説明になるのか、よどみなく答えた。
「お友達の家を出て、しばらく歩いた先に紙芝居屋のおじさんが見えたんですって。
それにつられて追いかけていたら、迷子になったらしくて。
どこなのか分からないでいたら、お義父さんのお友達がお孫さんを連れて通りかかったんですって。
それが映画館の近くだったから、てっきりお義父さんが、かつ子を映画館に連れてきたんだと思ったらしくて。
そのまま一緒に映画を観てきたから、こんなに遅くになっちゃったらしいのよ。
その方も途中でおかしいと思って、外に出ようとしたらしいんだけれどね。
かつ子とそのお孫さんが、最後まで観るってきかなくって。ラジオで流れてた怪獣の話が映画になったらしいんだけど。
帰って来てからも大騒ぎしていてね。怖いなら観なきゃいいのに。
それで、おにぎりを食べさせたら、ころんって寝ちゃったのよ。」
人の気も知らないでねえ、と言いながら、寿栄子はかつ子の頭をそっと撫でた。
早苗と豊子はお茶のおかわりをいただいてから、珠代の待つ家へと戻った。
玄関を開けると、土間にしゃがむ珠代。
その視線の先には竈
竈にかけられた羽釜からは米の炊ける匂い。
見れば鍋という鍋に、煮物やら味噌汁やらが入っている。
珠代は待っている間、ずっと料理をしていたらしい。
早苗は力が抜けて、上り框に腰を落としてしまった。
「あら、大丈夫よ、早苗さん。持ってきた食材を使ったから。炭も一俵届きましたもの。」
すでに久間木が言いに来たのか、珠代はかつ子が帰った事を知っていた。
早苗と豊子に「無事に帰ってきて良かった」と言いながら、手を休めることはなかった。




