第四十話 火の守り番 2
久間木と羅宇屋の老人を残して、三人は玄関を出た。
敬蔵も寿栄子も出掛ける恰好になっていたので、早苗は二人が探す範囲を聞いて、自宅である離れへと戻った。
玄関を通り、上り框に膝をついて目の前の障子戸を開くと、真っ赤になった豊子を揶揄う珠代の姿があった。
早苗の張り詰めていた気が、急速に崩れた。
「何してるんですか。」
「あら、早苗さんには不要なお話よ。新妻としての心得を豊子さんにお伝えしていたのよ。」
「え!そんな話だったんですか?違うと思いますよ、これは…」
顔を真っ赤にした豊子が抗議する。
早苗は眉間と腹に、ぐっと力を入れると、はっきりと言った。
「そんなことはどうでもいいです。かつ子ちゃんが行方知れずになったそうです。
これから、わたしと豊子さんで探しに行きますから、用意しましょう。」
「え、かつ子ちゃんって。久間木さんのところの女の子ですよね。
ここに来る時に会いましたよ。
髪を伸ばしたいのに切られたって、首が寒いって。
そう言ってマフラーをグルグル巻きにしてましたよ。」
「その後にお友達の家に行って、それから、分からないんです。」
早苗が言うと、珠代が驚いたように言った。
「まぁっ!もう日が暮れますわ!大変、私も行きます。」
「いえ、珠代さんはここにいて下さい。車移動の人が歩き回っても、迷子になるだけです。
邪魔です。留守番していて下さい。」
「ええと、それじゃ、アタシは駅の方なら分かるから、その辺りを探せばいい?」
「ええ。豊子さんが分かるところだけで結構です。何かあれば久間木さんのお宅の電話に掛けることになっています。」
「久間木さんは、ご自宅にいらっしゃるの?」
「はい。後で珠代さんのところにも顔を出すと言っていましたので。
絶対に、勝手に、探しに出ないで、下さいね。」
「そんなに何度も言わなくても。
ひどいわ、早苗さん。」
「一番何をするか分からない人だから言ってるんです。
余計なことはしないで、留守番していて下さい。」
珠代はじっとりと早苗を見ていたが、しぶしぶ承諾した。
その代わりにと、珠代は自分のふんわりとしたコートを早苗に着せた上に、手袋まで渡してきた。
断っている時間も無駄に思った早苗は、素直に受け取ると、雪の日用のブーツを着物のままに履いて、豊子と外へ出た。
日が沈もうとしている。




