第二十二話 干し柿 1
真っ青な空に向かって、モンペを穿いた女二人が、長い棒状のものを木に打ちつけている。
その様は滑稽だが、当人たちにしてみれば、至極真っ当な行為だった。
早苗は、久間木宅の濡れ縁から、珠代と豊子が渋柿を採る姿を眺めていた。
眺めながらも、するすると渋柿の皮を剥き、干し柿にするための準備を進めていた。
「ほう、まだまだ実があるようですな。」
出掛けていたのか、羽織姿の久間木が座敷の奥の方から出てきた。
「どうも採り方がよくないように思うのですけど。」
珠代よりも背の高い豊子が、棒を握って上へと突き出している。
棒の先には針金を輪にしてつけてあり、その針金には布が袋状に付いている。
針金で柿の枝を折り、その折れた枝ごと袋へ入れるのだが、どうにも下手だ。
梯子を借りて早苗がやった方が早いようだが、そこまで働く気にもなれず。
一番背が小さいということで、皮剥きの仕事を請け負って、黙々と剥き続けている。
「まあ、珠代さんならもっと上手く出来そうですが、これはこれで楽しそうだから、いいじゃないですか。」
久間木が早苗の隣に座りながら言った。
どうにも豊子の働きの悪さは、久間木にも見抜かれているようだった。
三人で夕食を共にして以来、何かと早苗のところに珠代と豊子が来るようになった。
早苗の知らない所で約束をして来ているらしく、迷惑この上ない。
殆ど外出をしない藤村家には必ず誰か居ると分かった上で来るのだから、始末に負えない。
それでも来れば珠代の持ってきた菓子と一緒に茶を出してしまうので、早苗にも落ち度がある。
ぽかぽかと、温かい陽射しが濡れ縁に居る二人を包む。
久間木は手元に煙草盆を寄せて煙管を手に取るが、早苗を見てから思い出したかのように煙草盆ごと元に戻した。
どこかで焚き火をしているのか、煙の匂い。
気の緩む陽気と、ひとりで皮を剥き続けて内省をしていたせいか、早苗は久間木が来た事で、少し弱さが出た。
俯いたまま、ぽつりと言った。
「死んだ人間に会うことって、あるのでしょうか。」
盆踊りの太鼓が遠くに聞こえたあの路地で、早苗はあの男に会った。
佳乃には悪いと思ったが、再び店を訪れることが出来なかった。
秋彼岸も終わった頃、稔と一緒に、以前使った駅よりも一駅遠くまで電車に乗り、路地を通らないように遠回りをして佳乃の店へ向かった。
間が空いた事を詫びてから、ヤミ市の時に早苗の所へちょっかいをかけに来ていた男の話を出してみた。
会ったことは、黙っていた。
鉄板に薄く、小麦粉を溶いたものを流す。
今日は餡子入りの粉焼きだと、張り切って佳乃が作っていた。
手を止めずに、早苗の話を聞く。
佳乃は稔に気を遣っているからか、暫く黙っていたが、だんだんと首を傾げ始めた。
「あの、男よねぇ。さなえ、さなえってうるっさい嫌な感じの。」
早苗に確認するように言うと、眉間に皺を寄せた。
そして、言った。
「あいつ、死んでるわよ。」




