第二十一話 天高くのぼる白煙
秋桜が、家の裏手にある畑の片隅で、さわさわと揺れている。
早苗は洗濯機が回る間、ずっとその様を眺めていた。
高い空にはちり紙を溶かしたような雲が散っていた。
どこまでも穏やかな日和。
そういう時に限って、車の停まる音がする。
ため息。
襷掛けであらわになった肘をつく。
早苗は洗濯機の横を離れないまま、洗濯物が水の中で回るのを見ていた。
そこに顔を出す珠代。
濃い紫色の着物に耳隠しの髪型が、やけに古めかしい。
洗濯機に肘をついたまま、早苗が言った。
「何の用ですか。」
社交辞令は何の意味も為さないと理解してから、早苗は珠代への対応を変えた。
考えるだけムダなら、しない方がいい。
その早苗の態度がさらに珠代の気に入るものになっていることに、早苗も薄々気がついてはいたが、今さら改めるのも嫌になっていた。
既に珠代がにやにやと笑っていて、腹立たしい。
その手には、紙袋をひとつ。
また今日も、手土産があるらしい。
「シュークリームを買って来たわ。一緒に食べましょうよ。」
珠代もムダな社交辞令をすっ飛ばして、話をするようになっている。
「食中毒ならごめんよ。」
「三十年前の話じゃなくて?早苗さん、着物姿だけじゃなくて、中身もおばあちゃんなの?」
ころころと珠代が笑う。
戦中まで働いていた所の女将さんが言っていたことを、そのまま口から出してしまったことを早苗は悔やんだ。
口を尖らせて、洗濯機を覗き込む。
相変わらず、くるりくるりと回っている。
「後で豊子さんも来ますからね。」
珠代は一人でさっさと家の中へ入り、湯を沸かし始めた。
煙突から煙が出ている。
すっかり勝手にされている。
自宅ではお手伝いさんだか、メイドだかなんだかがいて、台所に立つことが無いからと、珠代は藤村家へ来てはきまぐれに火を熾す。
火を熾すたびに、炭を一俵置いていかれては、そうそう文句も言えない。
「七輪で薬缶をかければ済むのに。」
今日は珠代は薪をくべたい気分らしい。
煙突からは、白い煙が高い空へ向かって、昇っていった。




