第十一話 女たちの夕餉 2
「早苗さんは、お酒は飲まれないのかしら?」
「そういえば、いつも稲川さんたちだけ飲んでますね。」
「お猪口で三回も飲めば充分よ。」
「豊子さんは、稲川さんたちと飲まれるの?」
「あ、アタシ、男の人たちとお酒を飲んでお金を稼いでるんで!それなりに飲めますよ!あ、稲川さんはお客さんなんです。」
珠代は何か納得した顔をしていた。
「稲川さんは、いい人なので、きっとそのうち奥さんが出来ると思います。だから、体の関係は持たないようにしているんです。」
「あら、どうしてそう思われるの?」
「えーと、前に稲川さんが女の人に贈り物をしたいから、一緒に選んで欲しいって言われて、銀座に行ったんですよ。きっと好きな人がいるんですよ!」
朗らかに答える豊子を見て、珠代も早苗も、稲川の寂しそうに笑う顔を思い出していた。
けれど、二人とも豊子には何も言わなかった。
代わりに、藤村家の台所の話になった。
「今どき、石油コンロでも置かれた方がよろしいのではないかしら?」
「カマド、久々に使いました!薪を買ったり面倒じゃないですか?」
「久間木さんに御負担をかけたくないので、このままでいいんです。」
「でも、電気冷蔵庫くらい入れてもいいのじゃないかしら?あら、いつもお茶をご馳走になっているから、私が差し上げてもよろしいかしら?」
「いえ、先日、洗濯機をいただいたので、もう結構です。」
「え!珠代さん、洗濯機あげたんですか?」
「ふふふ、恥ずかしいわ。使い古しの物なんて。新品は要らないと早苗さんに断られてしまったのよ。」
どうしてそこまで珠代が早苗に物を与えようとするのか。
明確に意図が読めない贈り物ほど怖いものはない。
これ以上、珠代から施しを受けることは早苗には耐え難い。
「手押しポンプではなくて、蛇口から出る電動の方が楽よ?」
「いえ、充分ですので。」
愛想笑いも出ない。
無表情のまま、早苗は答えた。
珠代は、無表情に答える早苗を見て、背筋を伸ばしたまま、満足気に艶やかな笑みを浮かべた。




