序幕
ヤンデレヒロインによるメリバです。
はじまるよ〜
ふかふかとした、桜。
刷毛でさっとはいたような雲を浮かべた青空。
花見日和の午後のひととき。
開け放った雨戸の戸袋に、背中を押しつけるように座る。座布団の上で居所を決めると、老人はタバコに火をつけた。
陽が真正面に顔へぶつかるが、それに頓着もせず、ため息のように煙を吐いた。
「今年も、桜が、見られましたね。」
独り言が恥ずかしくもなくなった。年をとって、後は死ぬだけだ。何を今さら気にするものか。
古希を越えてしまえば、そういう心持ちにもなろう。
青い空に目を眇めながら、少し震える手でまたタバコを口に運ぶ。
皺を口元に寄せながら、きゅうっと息を吸う。
年老いて、緩んだ着物の衿元からはシミの浮き出た肌が見える。すっかり老人のそれだ。
タバコを吸う久間木も、そろそろ自分の寿命が尽きそうだと思い始めている。
「まぁ、充分ですけどね。」
明治に生まれ、昭和もそこそこ生きた。もういいだろう。
久間木は桜の花を眺めながら、思い出深い店子の夫婦を思い出していた。
「本当に、あの人は、亡くなった母に、よく似ていた…」
しばらくの間、タバコの灰を落とすことも忘れて、呆けたように桜を眺め続けていた。
だらしなく、あぐらをかいた膝の上に載せた右手には、煙の昇るタバコ。
タバコの先から灰がほろりと崩れる。
遠くから、ウグイスの鳴き慣れた声が届く。
初日なので、もう一話投稿します。




