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美形貴族の中からダーツで夫を選んだ悪女です ~私と夫の一年戦争~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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曇り男さん


 ウィリアムはこのところ忙しそうだった。ある夜、遅く帰って来た彼が、湯あみをしてベッドに入ったあとでこう言った。


「……明日、リン・ミッチャムと顔を会わせる。彼女の婚約者であるクライヴ氏も同席するから、二人きりじゃない」


「そう」


 クリスティはうつ伏せの状態になり、枕の上で頬杖を突いた。――彼のほうを流し見ると、ウィリアムはクリスティのほうを向いて横向きになっていた。


 ウィリアムの瞳は静かで穏やかであったけれど、青灰のグレー部分が今日は強く出ていて、曇り模様に見えた。


 クリスティは手を伸ばし、彼の瞳の上にそっと乗せた。


「曇りのち晴れと、曇りのち雨……どちらがいい?」


 尋ねると、ウィリアムの口角が微かに上がる。


 彼は自身の手を持ち上げ、クリスティの手に重ねた。そのまま目元から引きはがすつもりなのかと思ったら、彼は手を重ねたまま、しばらくのあいだじっとしていた。


「どうして空模様のことなんか言い出したんだ?」


「あなたの瞳が曇り空みたいに見えたから」


「そうか……だけど君の瞳の輝きを追って行ったら、晴れた場所に出られそうだ」


 クリスティの瞳は、大地の色、新芽の色、空の青が混ざり合っている。


 それから煌めくようなゴールドも。これは元々彼女が持っていた色なのか、あるいは、近くにいるウィリアムの金色の髪を映し出しているのか。


「あなたは晴れた場所に出たいの?」


「……分からない」


「お馬鹿さんね」


「そうかもしれない」


 ウィリアムが漏らした呟きは小さかった。


 彼は弱っているのかしら、とクリスティは思った。それでなんだかとても、苦しくなって。彼を憎らしく思った。


 誕生日に用意された素晴らしいケーキを、目の前でひっくり返されたような気分だった。――クリスティはただそれを眺めている。現実をコントロールできずに、ただ眺めているのだ。


 そして実は、ウィリアムのほうだって同じなのかもしれなかった。彼にしか分からない、苦しみを抱えているのかも。


「……どうしてあなた、リンと会うことを私に言ったの?」


「言っておくべきだと思って」


「なぜ?」


「そのほうがフェアだから」


「あなたがフェアかどうかを語るなんて、馬鹿げているわ」


「まったくだ」


 彼は今度こそクリスティの手をそっと剥がした。


「――もう寝よう。おやすみ、クリスティ」


「おやすみ、ウィリアム。明日はたぶん雨よ」


「そうか、残念だ」


「決めたわ、私は南国に行くことにする。本気よ? 晴れた国で一生暮らすの。――バイバイ、ウィリアム。曇り男さん」


「君はものすごく意地悪だ」


「そうかしら。とっても親切なのに。あなたは知ろうともしないの」


 ウィリアムが灯りを消した。


 暗くなった部屋に耐えきれず、クリスティは掛布団を頭の上まで引っ張り上げた。――私、本気で南国に行ってやるわ、そんなことを思いながら。


 けれど明日になったらたぶん、行く気も失せているのだ。だっていつもこんなことの繰り返しなのだから。




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― 新着の感想 ―
[一言] ウィリアムの瞳を曇り模様、クリスティの瞳を晴れ間に例えたシーンがとても素敵でした。ウィリアムの迷いとクリスティの嘘のなさが表現されているようで、とても切なく美しいシーンですね。 古き良きイギ…
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