第50話 同棲初日にもたげる気持ち
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シャワーを汗で流し、汚れた服を着替えてリビングに戻ってきた。
まだ気持ちが落ち着かないのか、奏多はソファーにうずくまって俺をじっと見てくる。
「悪かったって。そんなに拗ねるなよ」
「す、拗ねてないし。別に、負けたなんて思ってないしぃ」
ぷい。今度はそっぽを向いてしまった。可愛い奴だなぁ。
奏多の隣に座って頭を撫でると、一瞬ほにゃっと顔を綻ばせたが、頭を振ってまたジト目で睨みつけて来た。
「ふん。ぼくがなでなで程度で懐柔されると思ってるのかい?」
「懐柔なんて難しい言葉、よく知ってるな。偉いぞ」
「えへへ。お勉強がんばった~……じゃなくて!」
俺の手を払うと、何か言いたそうな顔をしていた。どうしたんだろうか。
「奏多?」
「……なんか……京水、女慣れしてない?」
「え?」
女……慣れ……? 俺が?
「いや、ついこの間まで童貞だったけど」
「嘘だッ!!」
「嘘じゃないが」
なんでそんな風に思ったんだ? ごめん、わからない。
首を傾げていると、口を真一文字に結んで紫紺色の瞳を瞬かせた。
「だ、だって……さっきの……」
「さっきの?」
「ぅ……ぅぅぅぅっ」
クッションを抱き締め、脚をじたばたさせる。ちょ、ほこり舞うから止めて。
不安なのか、それとも不満なのか……何をそんなに悶絶してるんだろう、この子は。
とりあえず落ち着くまで待っていると、クッションから少し顔を上げて、じっと俺を見つめて来た。
「さっきの……ちかくで見つめてくるやつ……すごく、どきどきした……」
――ドキッ。
赤く火照った頬。潤んだ瞳。艶のある声。奏多の表情と言葉に、心臓が跳ね上がる。
手を強く握りしめ、あふれ出そうになる情欲を必死に押さえつけた。
「べ、別に慣れてるってわけじゃない。こうすれば、奏多もドキドキするかなって思って実践しただけだ」
「ほんと?」
「ああ、本当だ」
「ぜったい、別の女の人にやってない?」
「絶対やってない」
「……よかった」
安心からか、ほっと安堵の息を吐く。
なんだ。奏多って意外と嫉妬深いというか、そういうの気にするタイプなんだな。奏多なら、「過去の女なんてぼくで塗り替えてやるぜ!」的なことを言うタイプだと思ってたのに。まあ過去の女なんていないんだけど。
そんなに心配なのか……ちょっと悪いことしちゃったかな。
こういう時は、ちゃんとフォローしてやんなきゃな。
「大丈夫だって。後にも先にも、俺には奏多以外考えられない。ずっと一緒にいてくれ。な?」
「……? うん。それはもちろん……だけ……ど……~~~~ッ!?」
硬直する奏多の顔が、何もしていないのに急激に赤くなり、思い切り肩を叩かれた。ちょ、痛い痛い。何いきなり。
「そそそっ、そうやって京水はまたぼくをからかって……! ばか! You fool!」
「いや、からかってないけど」
「だだだだって……い、今の……ぷ、ぷっ……!」
何かを言いかけた奏多は、またクッションに顔を埋めてしまった。ごめん、俺また変なこと言った? 全然意識してなかったんだけど。
頭に疑問符を浮かべていると、奏多が俺の方をチラッと見て、手を伸ばしてきた。手でも繋ぎたいのかな。
奏多の手を取って、指と指を絡める。いわゆる恋人繋ぎに、奏多は恥ずかしそうにしながらも、満足そうな笑みを見せてくれた。
「まったくもう……まあ、京水の言葉は信じるとしても、どっかの誰かは勘違いさせてそうで怖いなぁ」
「あっはは、そんな奴いないって。女友達なんて片手で数えられるくらいだし、ほぼほぼ疎遠だから」
「ならいいけどさぁ」
友達と言っても、杠以外はミヤの友達って感じだったから、名前を憶えてる方が少ない。……あれ、それ友達? もしや俺、杠以外の異性の友達っていない? 悲しいなぁ……。
交友関係の狭さに愕然としていると、奏多は満面の笑みで俺の肩に頭を乗せて来た。
「奏多、どうした?」
「理由がないと、イチャイチャしちゃダメなの?」
「そういうわけじゃないけどさ」
「ならいいじゃんっ」
ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。
ふわっと香る奏多の匂いと汗の混じった芳香に、俺の中の邪な感情が鎌首をもたげてきた。
喉に絡まる唾液を飲み込み、そっと奏多の肩に腕を回すと、奏多は目を見開いて硬直する。
「奏多。……いいか?」
「えっ……!? だ、だめっ。まだ朝だし……!」
「関係ない」
「ななな、夏休みにも入ったばっかで……!」
「関係ない」
「な、ならせめてシャワーをぉ……!」
「奏多」
強く抱き寄せて、唇を重ねる。
最初は抵抗してきた奏多も、観念したように体から力を抜いて、俺の服を掴んで離さない。
もう、我慢ならん。
エアコンの駆動音。外から聞こえるセミの喧噪を聞きつつ、奏多をソファーに押し倒し、豊満な胸へ手を伸ばした――。
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