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1-53 新しき日々

 それからは毎日、美美は大忙しだった。


 農場設備の開放業務が日々続き、そのすべてが美紅やブリちゃんとの御馴染みのトリオでの宝探しだった。


 更に他のメンバーも仲間に入れて、開放の報酬としてジョブの開放を行なっていったり、その合間に、料理人として食料生産を行なったりとオールマイティに活躍していた。


 生産職を優先にジョブ開放を行ったので、トイレットペーパーなどの日用品も余裕をもって供給が始まった。


「ありがとう、ミミちゃん。

 これで不浄の左手への道は避けられたわあ」


 これには多くの女性プレイヤーが大感激していた。

 生理用品の生産も始まっていたし。


 商業ギルドや冒険者ギルドなども開放出来たのだが、NPCが復活しないため、その業務はプレイヤーが担当する事となった。


 ウサギ達、他の動物化していたプレイヤーも無事に人間に戻れて感涙していた。


「いやー、人間でいられるって本当に素晴らしいなあ」


「ホントホント。

 でも楽しい体験だったよ」


「あたし、一回猫になってみたいとは思っていたのよね。

 一生そのままは嫌なんだけど」


 だが、彼らは今後も好きな時に動物アバターになれるので美紅を非常に悔しがらせていた。


 さすがに、すべての人のジョブを戻すほどはクエストが続かないかと思われたが、何しろ広大な各所がすべて封印されているので、百人単位でチームを組み、なんとか全員戻す予定ではある。


 今回も一緒に捜索していたエメラルド・ファームの人々も見事に農夫として復活した。


 ただ、このままだと全ての人のジョブを開放するのには一年以上かかる見込みだ。


 一日1~2件しかやれない上に、一日で片付かない内容の物もあるからだ。


 かなり手が込んでいて、あの手この手でスリットは隠されていた。


「こんなに凝ったやり方を、よくもまあこれだけ考えつくよね」


「あの手抜き運営とは思えない。

 中の人が代わってない?」


「あたしも、たまには休みが欲しいしね」


「うちら、毎日遊んでいるようなもんだけどね」


 もう美美も探すのは人任せで、スリットを差し込んで開放するための立ち合いのためだけにいるようなものだった。


 とにかく、美美がいない事にはクエストを終了させられないし、ジョブの開放も出来ない。


 挙句の果ては、もうプレイヤー総がかりでクエスト探索を行い、美美達が呼ばれるという事になった。


 その場合、何故か遊び人がいるとすぐに片付くのであるが、そうでないと延々と探しまくる破目になるケースが多かった。


 結構希少なジョブだったりするし、特に特殊装備持ちの美紅などはもうあちこちから引っ張りだこで、毎日楽しく駆けずり回っていた。


 よく飽きないもんだと美美は感心していたのだが。


 美美は食料調達委員を廃業し、ジョブチェンジ推進委員を新たに拝命した。


 生産職の前にカンストした料理人達を開放しておいたので、そっちの仕事は彼らに割り振られ、美美は相変わらずの宝探し業務に励んでいたのであった。


 そして、ある日美美はレッドアント赤沢やイーグル倉田と話をしていた。


 もう赤沢は議長を下りて、優先的に復活させた仲間とかねてからの重要議題であった芥の捜索へと移っていた。


「ねえ、結局色々な謎は残ったままだよね」


「ああ、お前の活躍で食料問題は解決したが、NPCが消えてしまった事、芥が生きていた事、そして芥が言い残した事、今俺達がどうなっているのかなど、すべてが依然謎として残ったままだ」


「ゲーム内とはいえ、これだけ時間が経ったんだから、あたし達の本体は無事じゃないような気がするんだけど」


「生憎と、本体のパラメータは正常そのものだよ」


 相変わらず自分の本体をまめに監視中の美紅がそう継いだ。


「あるいは、今の俺達が実体としてこの空間にいるものか。

 それも芥に会えれば一発でわかりそうなもんだが」


「まず、彼の方からは出てこないよね。

 なんか、あたし達に教えたら駄目な理由がありそうだったし」


「にもかかわらず、奴は俺達に『知れ』といった」


「教えちゃいけないルールなんだけど、お前達の力で真実を知らなくちゃいけない、そういう事なのかな」



 そして倉田は、あの日の邂逅を想起するかのように遠い目で語った。


「あの、魔王戦への介入も俺達を守るつもりだったんじゃないのか。


 だから、美美がベストショットを決めるまで介入しなかった。


 おそらく、もし美美が魔王の狙撃に成功していたら、魔王軍は消えずスタンピードを起こして街が壊滅していたんじゃないか。


 俺にはそう思えてならんのだが」


 美美も、机の上に腰かけて足をぶらぶらさせながら、同意するように返した。


「そだね。

 勇者って運営が人格なんかも認めて選ぶんでしょ。


 ゲーム内の規律を守るというか、規範となる人物を中心に、荒ぶる事無く楽しく遊んでねという意味合いで。


 だからきっと、あの人も。

 ね、ブリちゃん」


「アンっ」


 そのチワワには赤沢も呆れた様子で窘めた。


「おい、大橋。

 いつまでそのままでいるつもりだ。


 たとえ中学生でも、お前はうちのナンバー4だぞ」


「いやっす。

 あの真の姿を晒して笑い者になるくらいだったら、一生このままでいいっす。


 ミミさんのご飯も美味しいですし」


「お前なあ」


「ふふ、ブリちゃんはそのままでもいいよー」


「でも、中学生のブリちゃんも可愛いよね」


 そんな美紅の戯言に抗議するようにチワワは可愛く吠えまくった。


 美美の御膝に抱かれて撫でられまくっているので、ただ可愛いだけなのだが。



「まあいい、各種案件はこれから手分けして捜索していこう。


 いずれにせよ、キーになるのは芥という事だ」


「あいつ、本当に生きているんだろうか」


「でも、生きている人間の反応だったよ。

 姿というか、そのう、目は死人のそれみたいだったけど。


 なんていうのかな。

 一度完全に死んだとか、死の世界を見てきたら、ああいう目になるんじゃないかと思うような」


「ああ、そうかもしれない。

 以前とは少し様子が違った感じだった……」


「考えても埒が明かない。

 とりあえず、美美はなるべく早く全プレイヤーのジョブを開放してくれ。

 何があっても対応できるように」


「了解でーす、勇者様」


「なんだ、ちゃんと名前で呼べ」


「だって、今や五万人のプレイヤーにとって唯一の規範となる人物なんだからさ。

 もう議長じゃないんだし」


「まあそうなんだがな」


「とりあえず、あたし達は生きているようなんだし、こうなったらオーディの世界に引っ越した気分で頑張るかな」


「お前は本当に前向きな奴だな」

「それだけが取り柄だもん」


 とりあえずのやるべき仕事、そして愛すべき仲間達もいる。


 ついでに可愛らしい愛犬も入手に成功したので、この世界を楽しんで生きてやろうと思う美美なのであった。


本日最終回です。


すみません。

この作品は見事に第一部完という形で終わりになります。


せめて世界観が出るところまでやりたかったのですが。

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