1-47 遊び人の神髄
遊び人とは。
無論、遊ぶ人である。
ゲームのイベントなどは無論の事、何もない所で見事に遊んでこそ、真の遊び人である。
という訳で、あらゆる施設が閉まってしまっており、遊ぶどころか何もしようがないこの農場地区で、とりあえず何して遊ぶかという会議を始めた。
「何しろ、公園一つ開いていないからね」
「何故か公衆トイレが開いているのは良心的だよね」
「犬なら駆け回っているだけでも十分遊びになりますがね」
「じゃあ、路上ドッグランでもする?」
そう言って美紅はフライングディスクを取り出した。
美美もそれには特に反対でない。
何しろ人っ子一人いないので、車も通らない。
この今いる農場前の大通りなんかは、ちょっとした公園並みの広さがあるのだ。
「そーれ、ブリちゃん」
美紅が投げて、チワワが走る。
美紅がメインのはずなのだが、美美も混ざって楽しんでいた。
それをやっている内に、次第に目的を忘れて遊びに熱中していった。
「はっ、思わず童心に帰ってしまった。
美美、何かクエストが来た?」
「さあ、特に無いなあ。
まあもう少し頑張ってみようよ」
そして、しばらく遊んでいたら、チワワが何かを発見した。
「あっちで何か物音がしたような。
たぶん何かの生き物っす」
「へえ? まあ確かに狩猟場には動物いたから、ここにいたって別におかしくないけどね」
おかしくないどころか、農場を開放して生き物を出現させるのが主目的なのだ。
駆けて行った二人と一匹の前に現れたのは、一羽の鴨だった。
のんびりとした様子で、なんか大口開けて道の真ん中で欠伸をしていた。
「合鴨農法の奴じゃなくて、純粋な鴨だね、こりゃ」
「はて、狩場から抜け出してきたとか?
向こうでは特に見かけなかったな。
特に池みたいな大きな水場を回ったわけじゃないんだけど」
「農場でも飼育してたかもしれないよ。
どこかで生きている農場があったのかな。
ここの施設は地図通りに全部回ったつもりなんだけど」
美紅が抱き上げると、鴨は特に暴れる様子もなく大人しくしている。
どうやら人に慣れているようだ。
「ここの子かな」
そこにはエメラルド・ファームと手書きで書かれた看板が上がっていた。
「へえ、どれどれ。
あー、マップの説明によると、ダチョウ・兎・牛・馬・豚・鳥類など様々な動物を飼育しており、ふれあいコーナーもご用意してございます、か」
「食用動物とのふれあいコーナーがあるのか。
それはまたそれで微妙な農場だな」
「あたしなら、捌いて肉にするところまで用意してもいいかな」
そう言って悪戯そうな光を瞳に宿らせる美紅。
「やめれっ。
まあ命を頂くという観点からいけば、本来ならそこまでやるべきなのかもしれないけど、それは料理人の本分じゃないしね。
まあやっても魚介類までよー。
鳥以上は無理!」
「鮫・マンボウ・チョウザメ・大マグロ・カジキなんかの大物は?」
「それを捌くのは、料理人じゃなくて漁師さんとか仲買人の世界だと思うの。
それはあたしの管轄外よー」
自分のガンスリンガーとしての膂力を用い、料理人用の大型刃物を装備すれば大物でもズンバラリンといけてしまいそうだが、やったら周辺が血の海になる事請け合いである。
リアルなら、やっても父親が釣った手に持てるサイズの魚をその場で捌いて調理するくらいのものか。
そして美美は訊いてみた。
「ねえ、あなたどうやって外に出てきたの?」
そいつは可愛く鳴いてみせてくれたのだが、意味が通じているかどうかは美美にもわからない。
「よし、そこの小動物。
動物同士で聞き出してみて!」
「無茶言わないでほしいっす。
動物同士なら何でも会話できる訳じゃないっすよ。
というか、他に犬もいないので犬同士で会話できるのかも不明なんすから」
「まあ、遊び人のジョーカー的な何かが働いたという事で。
イーグルには連絡しておくわ」
そして、引き続き犬も交えて、新しいメンバー? と一緒に遊ぶ遊び人マスターなのであった。




