1-31 カードキー
「じゃあ、一つ試してみるとしますかあ」
「何をだい」
事情を知らないB地区の住人が首を傾げたが、美美は例のカードを出してヒラヒラさせて見せた。
「たぶん、これがここでも使えるゲートキーなんじゃないのかな」
「なるほど、特殊イベントのインビテーション・パスなんかじゃなくって、特別なカードキーのような役割を果たせる物なのか。
どういう効果が出るか楽しみだな。
ゲートを解除して復活させてくれればいいのだが」
イーグルも合点がいったようで頷いていた。
「まあ、使えると決まったものでもないけどね」
「ほお、そいつはどこで?」
「イベントで魔王を撃ち殺したら、セカンド報酬でもらえたよ。
ただ、撃ち殺しただけじゃ貰えない特別条件による開放報酬なんだけど」
それを聞いて、相手はまた眉間を揉んでいた。
「さすがに、そいつは俺達には縁がないな。
それにしても、なんて意地悪なクエストなんだ。
クエスト会場はこっちなのに、解除キーはそっちの地区が持っているのか」
「まあまあ、そう言わずに試してみようよ」
さっそく試そうとする美美であったが、美紅を手招きしてカードを手渡した。
「ちょっと、あんたで実験。
他の人でも開けられるのかどうか」
「へー、面白そう。
じゃあ、ほいっとな」
残念ながら何も起きなかった。
そして美美が代わって試したところ、挿入したカードをクレジットカードのように排出してからアナウンスがあった。
『プレイヤー・ミミ。
B地区ハンティングゾーンへの入場を許可いたします』
その場にいた全員に聞こえる音声で、壁が答えた。
ただし、ゲートは開かないが。
「あれえっ?
おーい、壁ちゃん。
門が開いてないよー!」
「なんじゃ、そら」
美紅も首を傾げた。
彼女の時は、うんともすんとも言わなかったのに、壁が返事をした美美にさえ開かないとは。
「おっかしいなあ、バグなの?」
そう言って、壁に手をやった美美が『壁の向こう側』へとすっころんでいった。
「あいたあ」
それを見て狩猟ギルドの人間が興奮して騒いでいた。
すわ、解除クエスト達成なのかと。
「大丈夫か、ミミ」
「あ、うん。平気。
体を支えようとしたら、ホログラムみたいに突き抜けて転んじゃった。
あー、こっちは普通に草原だあ。
向こうに森林が見えるよ。
そっちからまだ入れる?」
イーグルも試したが、そこには壁が阻む空間があるだけだった。
「駄目だ。
やっぱり、お前でないと通過できないらしい。
お前が個人認証されているだけなので、他の人間は入れそうもない」
「何、それ。
じゃあ、一回出てからみんなで一緒に入ってみない?」
だが、無駄だった。
全員で固まって美美に触れたまま通過を試みたのだが、美美以外の人間は全員弾かれてしまった。
またしても狩猟ギルドの面々に落胆が走った。
そもそも彼らは狩人ジョブに変更できないのだし。
「あ、野牛がいた。
それとガゼルも」
「よし、狩ってこい」
「えー、えらくリアルな感じなんですけど……そりゃあ、あたしは強力なライフル持ちなんですけどねえ。
さすがにちょっとなあ。
弾が当たると現実みたいに血を噴きそうだし。
あ、森に果物とか野草がないか見てきますね」
すると、狩猟ギルドの人間が慌てて言った。
「気をつけてください。
草食獣を追う、肉食獣も狩りのために隠れて潜んでいますから」
「マジで⁉ サファリパークかっ」
「ミミ! 深追いはするな。
危なそうだったら戻ってこい」
だが美美以外は中へ入れないのだし、様子は見てこなければならない。
美美は大口径狩猟用ライフルを出し、他にごついナイフのついた大口径拳銃を取り出し準備をしておいた。
このナイフは非常にごつくて丈夫な作りのタイプで、細身の小銃用の銃剣のように簡単に折れてしまったりはしない。
銃身の下に装備されたそれは、刃渡り二十五センチの刀身の幅が五センチといったところか。
ガンスリンガーの装備に純粋な刃物はなく、持つとしたら何故か装備できる料理用の刃物だけなのであった。
これは料理人とガンスリンガーのジョブ持ちで、ある程度のレベルにある人間だけの特典なのだった。
故に、美美は特注の『大型戦闘用肉斬り包丁』とか『特大中華包丁』などというイロモノ装備を所有しているが、まだ戦闘で使用した事はない。
料理の方でだけは、牛豚丸ごと料理などで使用した事がある。
だが近接で刃物だけで戦うのは無謀なので、刃物付きの大型拳銃を用意しておいたのだ。
現実世界には絶対にありえないクレイジーな代物ではあるが、このゲーム内では敵に詰め寄られたような場合には有用な場合もある。
その近接戦闘専用の大型拳銃は、『インベントリから抜き撃ち』できるように準備しておいた。
特殊刃物も同様である。
インベントリの『フリー枠』に、そういう戦闘ですっと出したい装備を突っ込んでおくのだ。
それをインベントリの先頭に移動させておくのである。
しかも、視界の隅に置かれる『ファンクションモード』から視線スイッチで押して一発で呼び出して、瞬時に取り出す事が可能だった。
なんというか、ガンマンたるガンスリンガーの『抜き打ちの抜き撃ち』をやるための装備なのだ。
特に今みたいな、やたらとリアルな状況では手で武器を持っていなくていいから大変楽なのであった。
「じゃあ、一つサファリツアーと洒落込みますか。
歩きだけどね」
そこへ突然、『クエスト』が目の前に表示された。
「わ、びっくりした!」
「どうした、ミミ!
大丈夫か」
「あ、うん。
クエストが出たの」
「クエストだと?」
「ほら、例の奴。
『解除クエスト』よ」




