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1-15 必殺の要衝

 それから足場のよくない斜面の岩場にて、かなりの距離の行軍を行なった。


 そして過去のデータからソルジャーアントのクランが調べ尽くしてあったマップより、慎重に検討され選び抜かれた狙撃ポイントへと向かい、なんとか魔王軍よりも先に到着した。


「やっと着いたねー。

 へえ、ここが狙撃ポイントかあ」


「ああ、これが勇者様御指定の狙撃陣地だ」


 そこは一見すると、ただの岩山であったのだが、丁度谷がカーブしてくるところで大軍勢の雄大な流れ自体がクルリと綺麗に回るポイントでもあった。


 いわば、待ち伏せをしている敵に対して無防備な王の腹を見せてしまうポイントなのだ。


 そして、そこは上方から軍勢を見下ろせて、棚のような場所になっている上に遮蔽のような感じに天然の岩の壁が立っている。


 つまり、自分の身は隠す事が可能なうえ、下へと向かう俯角や、そして左右両方の水平な方位角が十分に取れるのだ。


 スナイパーが身を隠した場所から自在な角度で射角を選択できる、素晴らしい安全な待ち伏せポイントであった。


 ここからスナイパーの隠密射撃を食らったなら、さすがの魔王もお陀仏ではないのか。


 何よりも、こちらには魔王殺しの性能をゲーム運営から保証された必殺の対魔王武器と、それを実戦で物にしてきた手練れのガンスリンガーがいるのだから。


「どうだ、ミミ。

 やれそうか?」


「通常の条件ならたぶんやれる。

 けど今は」


「ああ、それで十分だ。

 現在、予測できない物は考えに入れてもしょうがない。


 タイミングその他すべては、射手のお前の判断に任す」



「うん、それしかないもんね。


 だけど実際の魔王の、軍勢の中での位置取りを見極めないと、なんともいえないなあ。


 今までは気楽に敵をつまみ食いみたいに撃ち倒してきただけなんだから。


 こんな緊迫した状況で、精密にターゲットを狙い撃つなんて初めての作業だよ」



「まったく、その通りだ。

 後はもう魔王を待つしかないな」


「とりあえず、ずっと待ち構えていて緊張し過ぎると、スナイパーはいざという時に体が動かないといけないから、対象の見張りはイーグルに任せるわ。


 あたしは敵が見えたら代わるから。


 それまで狙撃のシミュレーションでも頑張っとくんで、後の二人は敵襲に備えてそっちの見張りと警戒をよろしく」


「わかった、そうしよう」


「魔法による警戒と隠蔽はあたしに任せて」


「ミミちゃん、あたしが守ってあげちゃうわよー」

「うん、愛してるよー、爛ママ」


「では、本隊に向かって通信を出しておくか。

 一応、ここまでは順調だな」


 ゲームの仕様に基づく通信は何度か出す事になっている。


 まずは、陣地へと到着した時にアルファと。


 これはイーグルが今送信した。


 これは文字通信にてアルファベット一文字のAで送られる。


 それから魔王の軍勢が現れた時にはブラボー。


 そして射撃体勢に入った時にはチャーリー。


 無事に狙撃を敢行した時はデルタ。


 そして狙撃が成功し、魔王を倒した時にはトラトラトラ。


 予想外の事態が発生して作戦を中止せざるを得ない時には、フレンド通信にて、実装されている「アラート」を音声通信で放つ事になっていた。


 信号の受け手は、すべて総指揮官の勇者レッドアント宛てである。


 そして、どうしても救援を要請する場合はモールス信号でSOSを音声のみで発信する事になっている。


 そして一連の通信が途中で長時間途切れた場合は、アリスが情勢を偵察に向かいつつ、結果次第では戦闘を中止し本隊は撤収を開始する。


 もしその時に狙撃チームが生き残っていた場合は、作戦を続行するかどうか指揮官の赤沢、もし連絡不可能であれば現場指揮官の倉田がすべてを決定する。


 そして、失敗した場合はその場でプレイヤーの命運のすべては、不確定で運否天賦な何かに委ねられる事になるのだ。


 通常ならば、魔王軍が街へと到達した段階で討伐失敗のアナウンスが流れる事になるはずだ。


 そしてイベントは終了する。


 しかし、今までにこのイベで討伐に失敗した事はないため、赤沢達ですら本当のところはよく知らない。


 ましてや、現在の状況は不透明感極まる状態なのだから。


「ふう、なんか静かだねえ。

 本当に魔王なんて来るのかな」


「ああ、やたらリアルに出来ているんだけど、それはゲームの仕様だから。


 魔王軍がやってくれば、事はあっという間に始まるから気を抜くなよー」


「ラジャー」


 そう言いつつ、ライフルをしっかりと抱え込み、寝そべる美美。


 こう見えて、本番での行動に遅滞がなきよう、あれこれと頭の中で整理しているのだ。


 自分は魔王を倒す事だけを考えていればいい。


 それ以外の事はすべて仲間がバックアップをしてくれるのだから。


 必要なスキルを待機モードで展開し、戦闘に入れば瞬時に狙撃体勢に入れるようにしてある。


 狙撃に集中するあまり、他の事への気がなかなか回らなくなるが、そこは自分の担当ではない。


 気配遮断、視力増強、聴覚鈍化、距離測定、風速測定、湿度測定、気温測定、それらを加味した弾道計算に最適射出角の計算、ターゲットを視認しスキルによる一連の発射シークエンス。


 それはただ一点の、魔王という急所を狙うためだけの必殺のカウントダウン。


 そこに手振れ補正のスキルを発動させる。


 これは手先だけではなく、射撃耐性に入った体の全身が対象になり、スナイパーは一種の精密な射撃マシンと化すのだ。


 これぞ、まさに脳波接続のVRゲームならではの醍醐味であった。


 更に射撃補正の特殊スキルもあるが、これはいわゆるアクティブなガンスリンガー特有のジョブ専用のユニークスキルで、理屈抜きで命中精度を向上させるものだ。


 これに関してはステータスのみならず、対象となるプレイヤーの集中力や精神力が大きく影響するという、脳波を使って仮想世界に参加するシューティングゲームならではの必殺技なのだ。


 この点において、美美は非常に優秀なゲーミング・スナイパーであったのだ。


 それらのスキルの平行発動による一種の狙撃パッケージを、美美は『ライフルマン・パッケージ』と呼んでいる。


 本来であるならば絶対有利であり、たとえ魔王が相手といえども必勝ともいえる体勢であった。


 にも関わらず、魔王という敵を確実に倒せる文字通り必殺武器である愛用の超強力ライフルを握り締めながら、美美は何故か仰向けの頬を伝う脂汗を止める事が出来なかった。


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