遺跡への到着
『スマイル遺跡』に向かう作戦の傍らで、ラプラプ王とヒサヒデ主導のもと、“ワカラセ”の境地に至るための特訓をする事になった。
「今だ、リューキ!!――そこでロマンチックな言葉を躊躇なく囁くんだ!!」
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!――『今の俺ならおっきな恐竜なんかよりも、君だけを選んで見せる』……!!」
「ッ!!リューキ、お前のチョイスはあまりにも『ダイナソー!ヤッター、ダイナソー!!』に頼りすぎているきらいがある!ワンパターンにならないように、気をつけるんだ!!」
「ハイ!ラプラプ王!!」
ラプラプ王はこのように、女性に対して紳士的かつロマンチックに接する事の大切さを説き、
「ピ、ピ、ピ~~~ッス♡」
「え?いや、でも積極性が大事なのは分かるけど、そんだけがっついたりしたら引かれないか?てゆうか、今はオボロ一人をぎゃふんと言わせるための特訓なんだから、そんな他の女の子達にも手当たり次第に気のあるような素振りをするのって、マズイんじゃないのか?」
「ッ!?ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
「あぁ、うん……そう言われたらそうなんだよな~。いや、俺も今のままじゃいけないって分かってるつもりなんだけどさ……」
若干心配だったヒサヒデからは、積極的に相手に声をかけていく攻めの姿勢の重要さを説かれた……気がする。
意外にもヒサヒデは、Shippori and the Cityな行為のやり方などの話は特にせず、ヒサヒデなりのイケてる仕草や、この修行がオボロ一人に対してではなく、今後の俺の女性への接し方から発展して、俺自身の生き方に繋がるのだという事を言語ではなく、熱心に身振り手振りを交えながら俺に根気強く解説してくれた。
何よりヒサヒデは、今までの戦闘面での活躍もそうだが、実際にこれまで関わった異種族達や女性型のモンスターの連絡先をしっかりと聞き出していたという実績があり、ヒサヒデが俺に教えてくれようとした事だけではなく、そういう姿勢からも確かに学ぶべきことは多いのかもしれない……と、俺は感じていた。
そんな感じで俺は、昼は仲間達とともに遺跡に向かいながら野生の魔物達と戦闘を行い、夜はラプラプ王とヒサヒデからみっちりと特訓を受けていた。
そうして迎えた三日目の夜。
慣れたらあっという間であり、俺達はここまで問題なく道を進むことが出来ていた。
このまま順当に行けば明日には、いよいよ“犬神 秋人”という人物が捕らえられている『スマイル遺跡』へと到達する予定である。
だが、それはそれとして短い期間とはいえまだラプラプ王達からの修行が終わったわけではない。
俺はラプラプ王から教わって作った料理を振る舞う。
食卓に用意された豚肉や玉ねぎで色づいたアツアツの具材をご飯の上にかけた食べ物を前にして、オボロの目の色が変わる。
「えっ!?これ、リューキが作ったの!?何これ?なんていう料理!?」
おぉ、思ったよりも食いつきが良いみたいだ。
昼間の戦闘でクタクタに疲れながらも、ラプラプ王達にせっつかれる形で夕食を作ることになった俺は、オボロからの好感触な反応を前に気を良くしながら説明する。
「これはラプラプ王から教わった“シシグ”っていう細かく刻んだ豚肉を使った料理なんだ。味付けはラプラプ王達が『ブライラ』で発酵させていたココナッツみたいな植物の樹液だから、割りとアッサリした感じで食べやすいと思うぞ」
まぁ、キキーモラさんみたいに家事に精通したスキルがあるわけでもない俺の料理なので、キキーモラさんほどじゃないかもな、と告げる。
そんな俺の言葉に肯定するでも否定するでもなく、オボロが待ちきれないと言わんばかり、出来立てのシシグを口内へと運んでいく。
「……ふ~ん、休憩中やら夜中に男連中でコソコソ何をしているのかと思っていたら、こういう事してたんだ。リューキにしてはやるじゃない?」
悪戯っぽく、笑みを口元に浮かべながら生意気そうにそう語り掛けてくるオボロ。
……まぁ、四人で動いている以上、はっきりと口にしていなくてもバレずに活動するなんてそりゃ無理だが……面と向かって言われるとやはり恥ずかしい。
俺はそんな気持ちを悟られないように、自然な感じを意識してオボロの言葉に答える。
「オボロの言う通りラプラプ王やヒサヒデに“特訓”をしてもらっているんだけど、なかなか二人のようにはすんなりと自分のモノに出来てる気がしないんだよな。食材に使った豚型の魔物も、俺一人で調達出来たわけじゃないし、今回の料理なんか、こうやって実際にオボロに食ってもらうまでは自信がなかったし……そういう意味では、色々とありがとな。オボロ」
「……ッ!?」
「あぁ、食い終わったら食器は俺が片付けるよ。……って、オボロ?」
気づくと何やら、オボロの様子がおかしい。
オボロはこちらに表情を見せないように、シシグをかき込んで喰い終わったかと思うと、すぐさまお茶を飲んで俺の事をキッ!と睨んでくる。
「フン!リューキのくせに、あまり調子に乗らない事ね!……ラプラプ王達の特訓とやらも結構だけど、天空流の修行も忘れるんじゃないわよ、アンタ!!とにかく、ごちそうさま!」
そう言いながら、その場を後にするオボロ。
……一体何だったんだ、アイツ。
まぁ、オボロの言う通り特訓の成果はまだまだ身についてない、という事なんだろうけど……。
そう言いながら、調理を終えて俺も自作の料理を食べようとしていたところ、先程のオボロ同様にラプラプ王とヒサヒデの両名もシシグを食べながらこちらを見て、ニヤついた笑みを向けていた。
俺は気恥ずかしさやらバツの悪さから、少し不貞腐れたような表情で一人と一匹へと答える。
「ハイハイ。どうせ、俺はラプラプ王やヒサヒデからすれば、女の子の扱いはまだまだですよ、っと」
そんな俺の発言に対して、両者とも笑みを崩すことなく――それどころか、意外な返答を口にした。
「いや?存外我等との特訓は、予想よりも早く結果を出しているようだぞ?なぁ、ヒサヒデ」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス♡」
そう言いながら、頷き合うラプラプ王とヒサヒデ。
何言ってんだか……あの態度を見てれば分かる通り、そんなはずがないだろう。
からかうにも程がある。
「……」
チラッと目線を変えた俺だったが、空になったオボロ用の容器を見て、(まぁ、全く効果がない訳でもなさそうかもな……)と、思ったりもした。
そんな感じで、陽気に夕食を終えた俺達は、これまでとは異なる未知の場所での激戦に備えて早めに就寝につくこととなる。
そして迎えた翌日。
早朝から移動した俺達は、二時間くらいかけて無事に『スマイル遺跡』へと到着した。
こちらの準備も士気も万全だが、果たして遺跡内の敵や捕らわれている犬神 秋人はどうなっているのか……。
俺達は最大限に警戒しながら、拠点へと乗り込むことにした――。




