尋問開始
オボロの瘴気術によって、町に着いて早々の手荒い洗礼を難なく退ける事が出来た俺達御一行様。
状態異常を引き起こした結果、何故か白目を剥いた状態で舌を出しながら、がに股に足を開いて倒れているがそれどころじゃない。
こういう半端が許せない俺は、しゃがんで彼女達を一人一人の両腕の指をピース状態に整えてから、尋問を開始する。
「大体何が原因なのかは予想できるけど……アンタ達は、一体どうしていきなり俺達に襲い掛かってきたんだ!?」
「ハ、ハヒィ~~~!!お答えいたします!……この町を拠点にしていたスケベな男性プレイヤーのほとんどが”シスタイガー大森林”に行ったまま行方不明になってしまったので、プレイヤーの数が減ったこの町に、ちょくちょく”獣人”や”エルフ”達が、襲撃しにくるようになってしまったんです~~~!んほほぉぉぉッん♡」
「ッ!?えっ、そういう異種族って自分達の棲家を離れてこういう拠点にまで攻めてきたりするのか!?」
町に来て早々、誤解からとはいえオボロに反応して襲撃してきた事から、”プレイヤー”と獣人の関係が険悪なのはなんとなく分かっていた。
けれど、まさか”シスタイガー大森林”を根城にしている異種族達が、”プレイヤー”達のいる町にまで攻め入ってくるなんて……。
(でも、思い返してみたら、『ヒヨコタウン』では戦闘と何の縁もゆかりもなさそうなNPC達が自我を持って俺達を殺しにかかっていた。……そう考えたら、”プレイヤー”ではないとはいえ、異種族達が予定から外れた行為をするのも自然と言える、か……?)
更に話を詳しく聞いたところ、この『ナハバツ』という町では、あの大異変以降多くのプレイヤー達が”シスタイガー大森林”に向かっては姿を消息不明となり、それを好機と見たのか、散発的にエルフや獣人達がこの町に夜襲を仕掛けに来ているのだという。
今のところは幸いというべきか、夜間などの人気のない時間に少人数で食料やアイテムを町内から奪っていくだけで済んでおり、犠牲は出ていないようだが……。
それでも、ゲームのシステムに慣れ親しんだ”プレイヤー”達としては、心休まるはずの場所で常に外敵を警戒していなければならないというのは、命の危機はなくても外部から来た余所者に対して過敏になるくらいにはストレスが溜まる要因になっているのだろう。
地面に仰向けになっている状態異常アへ顔お姉さん達から視線を逸らして周囲の方を見渡してみれば、武装した”プレイヤー”らしい人達が、明らかな敵意と怯えが入り混じった眼差しで俺達の事を見ていた。
……まぁ、低レベルなのにいきなり数人ものプレイヤーを無力化した俺達を警戒するのは、至極当然の事かもしれないな。
そんな”プレイヤー”達とは対照的に、この町ではまだNPC達に自我が芽生えていないのか、特に何の反応も見せていないが、こんな空気の中でゆっくりこの町の宿で休もう!という気分にもならないし、流石に危険過ぎるだろう。
これ以上険悪な事態になる前に、俺達はとりあえずこの場から離脱する事にした……。
俺達は『ナハバツ』の町並みが見える草むらの中で息をひそめるように、待機していた。
最初に口を開いたのは、意外なことにキキーモラさんだった。
「リューキ様、オボロ様、今回は私のせいで不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした……」
「えぇっ!?なんで、キキーモラさんが謝ってんのよ!悪いのは誰がどう見ても、いきなり襲い掛かってきたアイツ等の方でしょ!!」
憤慨しながら、キキーモラさんの言葉を否定するオボロ。
そんなオボロの発言に対して、「ですが……」とキキーモラさんが答える。
「私がこのようにみすぼらしい格好のせいで、私のみならず御二方にまで恥をかかせてしまいました……私は、なんとお詫びをすれば良いのか……」
「もぅ、そんな事を……だったらキキーモラさんは、真っ先に『獣人に似ているから』っていう理由でアイツ等に攻撃された私は、そういう外見だから悪いって言いたいの?」
「い、いえ……そういうわけでは!!……そんなつもりではなかったのですが、誤解を与えてしまい大変申し訳ありません、オボロ様!」
膨れた顔をしてそっぽを向きながらそのように述べるオボロに対して、キキーモラさんが慌てた様子で再び謝罪する。
オボロも本気ではなかったのか、すぐに「ウム!」と仰々しく頷いてからキキーモラさんに再度向き合う。
「だったら、これ以上謝ったりするのナシ!……そんな後ろ向きで今どうにもならない事よりも、これからどうするかを考えようよ!」
「そう、でありますね。オボロ様……お心遣い、誠にありがとうございます」
「おぅさ~♪良いって事よ!」
そんな風におちゃらけた感じで答えるオボロの返事にクスリと、笑みを返すキキーモラさん。
気まずくなるかと思ったら、俺を抜きですぐに和気あいあいとしたりと、女心って本当に分からない。
そういった疎外感のあまり、(このまま二人が百合っぽい空気になり始めて、自動的に俺を間に挟みたがったりしないかな……)などとぼんやり考えはじめたりしていた。
そんな俺の心境など知る由もなく、オボロは「とにかく、日も暮れてきた事だし今日も野宿といくわよ!」と口にする。
ここまで疲労困憊で来たにも関わらず、町を眼前にしながら入ることが許されない俺達。
心身ともに一気に疲れが倍増してきた気がするが、明日からどうするにせよ、とりあえず今夜はオボロの言う通り、周囲に警戒しながら比較的魔物が出現しないこの町の近くで野宿をする事となった。




